普及は「我々が当初想定した以上に難しい」

 小寺社長は、サブスクの普及は「我々が当初想定した以上に難しい」と本音を漏らす。

 トヨタの場合、顧客は長年にわたり新車を購入し続ける、いわゆるロイヤルカスタマーが主流だ。そのためKINTO導入当初は「なぜ新車購入からサブスクに切り替える必要があるのかと、販売店側もユーザー側もなかなか理解してもらえなかった」というのだ。

 一方で、新車を初めて買おうとしている若い世代や、中古車からの乗り換え、期間限定の転勤、そして「ランドクルーザー」など長納期の人気車を待つ間の利用など、KINTOのサービスが合致するニーズも浮き彫りになってきた。そうしたことからトヨタの販売店もKINTOを有効利用する動きに転じてきている。

 ただ、こうしたKINTOに対する理解がユーザー側、販売店側に深まっていったとしても、クルマのサブスクがブレークするには「SDVとの結びつきがより明確になり、デジタル系サービスの必要性が(世の中に広く)理解されることが必要」(小寺社長)という。

 その時がいつ、どのようにやってくるのかは、KINTO単独の予想としてだけではなく、自動車産業全体として予期することは難しいと思う。

 なぜならば、クルマのサブスクは単なる消費行動の一種というより、「人とクルマ」「クルマと社会」とのつながりが大きく変わる可能性を秘めているからだ。

 クルマのサブスクの動向を、今後もしっかりと追っていきたい。

桃田 健史(ももた・けんじ)
日米を拠点に世界各国で自動車産業の動向を取材するジャーナリスト。インディ500、NASCARなどのレースにレーサーとしても参戦。ビジネス誌や自動車雑誌での執筆のほか、テレビでレース中継番組の解説なども務める。著書に『エコカー世界大戦争の勝者は誰だ?』『グーグル、アップルが自動車産業を乗っとる日』など。
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