10年自宅で闘病した母、母を介護した父…両親への思い

 エッセイを書く佐々さんの筆致はノンフィクション作品と同じく鋭く率直だが、対象が自分自身だからか、いっそう、のびやかさを感じた。もしも、重いテーマだからとこの本を手に取ることを迷っている人がいたとしたら、根底に佐々さんの明るさがあると伝えたい。

 それからもう一つ、この本の底流には、佐々さんの両親への思いが流れている、と感じた。これまでのノンフィクション作品でたびたび佐々さんは両親について触れているが、エッセイでは、その思いがストレートに伝わってくる。

 60代で難病を患い、10年間、自宅で静かに闘病生活を続けた母親。その母親を、一言の愚痴を漏らすことなく365日介護した父親。

 母親が亡くなった時、父親の憔悴ぶりを見て、〈お父さんは、お母さんのところに行っちゃうんじゃないかしら〉と、佐々さんはじめ周囲は心配した。ところが、父親は世界一周の旅に出て、新たな人生を生き始める。社交ダンスも始める。

 二人の強い生きる意志は、ノンフィクション作家・佐々涼子に確かに受け継がれていると思わずにはいられない。そして佐々さんの意志はまた、作品やさまざまな出会いを通して、多くの人に受け継がれていくのだろう。

 読後、思った。佐々さん、もっとあなたの文章が読みたいです。

 でもその前に、この本を出してくれて、ありがとうございました。

【砂田 明子(すなだ・あきこ)】
1975年岐阜県生まれ。(株)NTTデータ勤務を経て、現在はフリーランスのライター・編集者として活動中。作家インタビューや書籍の編集・構成を行う。趣味はF1とフィギュアスケート観戦。大学時代はフィギュアスケート部に所属。20年以上のF1ウオッチャーで、独自の取材を続けている。