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津波による壊滅的被害から奇跡的に蘇った陸前高田の醤油蔵を知っているだろうか(写真はイメージ)

(文:塩田 春香)

 おととし、初めて「ふるさと納税」をした。納税先は、岩手県陸前高田市。「お礼」に届いたのは、ホタテやアワビなどの海産物。その滋味あふれるおいしさに感激し、「この魚介を育んだ陸前高田の広田湾とは、どれほど豊かな海なのだろう」と、まだ訪れたことのないその地に思いを馳せた。

 だが皮肉にも、その「豊かな海」からやってきた津波によって、陸前高田は壊滅的な被害を受けた。本書『奇跡の醤(ひしお) 陸前高田の老舗醤油蔵 八木澤商店再生の物語』に登場する老舗醤油蔵・八木澤商店もその例外ではない。

「こんなにできた経営者」は本当にいるの?

 八木澤商店は、3.11のあの日、昔の姿を留めた美しい街並みごと津波に呑まれ、200年以上の歴史をもつ土蔵も、150年使い込んだ杉桶も、そして醤油屋の命ともいえる「もろみ」も、製造設備のすべてを失った。

 本書は、八木澤商店の人たちが廃業の危機に直面し、次々に降りかかる困難と対峙しながらも、再び醤油を造り始めるまでの記録である。しかしそれは、一企業の事業再生物語にとどまらない。

 震災から5日目の朝、八木澤商店9代目・河野通洋氏は、社員たちに決意を語った。