対ロシア宥和政策は危険だ
歴史が示しているように、ロシアは相手が強いか弱いかで態度を明確に変える。
つまり、ロシアは、相手の弱さと優柔不断に対しては強い態度を貫き事態をエスカレートさせるが、相手の強さと決意に直面すると後退する。
典型例がウクライナのクルスク奇襲攻撃に対するプーチン氏の態度である。
ウクライナはクルスク地域の100以上の町や村を制圧したが、プーチン氏は核兵器の使用を控えた。
彼は大動員を発表せず、公式に戦争を宣言しないで、ロシアの取り組みを「対テロ作戦」と呼び、軍事ドクトリンの発動を避けた。
ロシアは上海協力機構に「第5条」の発動を要請することもできたかもしれないが、そうしなかった。
その代わりに、プーチン氏はクルスクの状況を無視し、金縛りになっているように見える。
米国等の西側諸国の対ロシア政策は問題の多い宥和政策(appeasement)に陥っており、自ら危機を大きくしている。
宥和政策は、敵対国の主張に対して、その要求を受け入れることによって問題の解決を図ろうとする政策だ。
歴史は宥和政策の危険を教えてくれている。
第2次世界大戦前のナチスドイツに対して行った英首相ネヴィル・チェンバレンの宥和政策は第2次世界大戦を引き起こし、悲惨な結果を招いてしまった。
今日、米欧諸国は漸進主義政策(incrementalism)、つまり軽宥和政策(appeasement-light)を採用し、チェンバレンと同じ失敗を繰り返している。
米欧諸国は、モスクワを恐れて刺激しないことが、結局はモスクワを刺激することになるということを認めなければならない。
この愚かなサイクルを終わらせなければならない。
バイデン政権は、粘り強くプーチンを理解しようとしている。そして常に関係修復の試みを行っている。
無理してロシアの意向や立場を忖度し、ロシアの邪悪な行為を黙認することは、ロシアを利し、クレムリンを勇気づけるだけだ。
自らが主張してきた法の支配や民主主義的な価値観を否定する危険な行為だ。
その危険性は、ウクライナのみならず全世界、そして自国民にまで及ぶ深刻な危険なのだ。
米国内でマフィアの残虐行為を認めてしまったなら、米国内の秩序を維持し、法の支配を全うすることはできない。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、「我々のパートナーは、この戦争でウクライナが大勝し、ロシアが敗北することを恐れている」と発言しているが、その発言は的を射ている。
バイデン政権のある高官は「戦争終結後のロシアとの関係再構築が重要だ」とロシアに忖度する姿勢を明言する者もいる。
これに対して、リトアニアのガブリエリウス・ランズベルギス外相は、「ロシアが負けたらプーチンがどうするかなんて誰が気にする? ロシアが勝ったらプーチンが何をするかをもっと心配すべきだ」と述べたが、まさに正論だ。
戦争が2年半以上継続している状況下で、ウクライナの勝利に伴うプーチン体制の崩壊を心配するバイデン政権は異常だ。