ATACMSの射程制限は解除すべきだ(写真は米ニューメキシコ州での発射訓練、2012年12月14日、米陸軍のサイトより)

 ウクライナのロシア領クルスク州への攻撃(=クルスク奇襲攻撃)は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領のみならず世界中を驚かせたが、ウクライナ側の狙いが明確になってきた。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、クルスク奇襲攻撃をロシア・ウクライナ戦争の終結のためのトリガーとしようとしたのではないか。

 つまり、そのクルスク奇襲攻撃の目的は複数あるが、少なくとも以下の2つの目的は存在したのであろう。

①プーチン氏が主張するレッドライン(絶対に越えてはならない一線)は存在しないことを明らかにすること。

 米国などはプーチン氏が主張するレッドラインを根拠に、ウクライナがロシア領内に侵攻すると戦況をエスカレートさせるとして、ウクライナ当局を牽制していた。

②この戦争を終結させるためには、ウクライナの勝利(=ロシアの敗北)が不可欠である。そのためにはロシア国内で米国供与の長距離兵器(陸軍戦術ミサイルシステム「ATACMS=Army Tactical Missile System」など)の使用が不可欠である。しかし、バイデン政権はその使用を制限しているので、その制限を撤廃させるトリガーとする。

 米国の政治メディア、ポリティコ(POLITICO)によると、「ロシア国内で米国供与の長距離兵器の使用を認めてほしい」というウクライナの要望に対して、バイデン政権は「その必要性はなく、認められない。制限の解除が戦況に大きな影響を与えることはない」と頑強に抵抗している。

 私を含めて、多くの人々がこのバイデン政権の頑なな態度を批判している。

 本稿においては、ロシア国内でのATACMSなどの長距離兵器の使用制限問題に焦点を当てて、バイデン政権のプーチン大統領に対する宥和政策の問題点を指摘する。