バイデン政権の立場

 米国のジョー・バイデン大統領はこの戦争において、戦車、クラスター弾、ATACMS、「F-16」戦闘機の供与に一貫して慎重であった。

 また彼は、ウクライナ軍が米国製兵器を自由に使用してロシア国内の目標を攻撃することに抵抗してきた。

 ロシアとの緊張が高まることを恐れたからだ。

 バイデン政権は既に少数のATACMSをウクライナに供与したが、最近「米国はロシアの高価値目標を攻撃するのに十分な数のATACMSなどの長距離ミサイルを持っていない。ウクライナに送るために使えるATACMSの備蓄は限られている」として、ATACMSのさらなる提供に消極的だ。  

 さらに、ウクライナに供与したATACMSをロシア国内で使用することを禁止している。

 国家安全保障会議のジョン・カービー報道官は、「ATACMS等の使用制限に関する米国の方針に変更はない。何度も申し上げてきたように、ウクライナ側との会話は続けるが、非公開にするつもりだ」と述べた。

 8月23日付のポリティコは、バイデン政権の匿名の国家安全保障高官の弁として、次のように書いている。

「ロシア軍がロシア領空から滑空爆弾攻撃を行う航空機の90%をストームシャドウとATACMSの射程内にある飛行場から遠ざけた」

「ウクライナに対する制限を解除しても戦争に戦略的な違いは生まれない。つまり、ロシア国内の目標に対するウクライナの攻撃は効果的ではない」

 確かに、8月24日付の戦争研究所(ISW)も「西側が提供する長距離兵器の射程外の飛行場にロシア機が再配備されたことを確認しており、戦域全体でロシアの航空活動が減少しているとの報告は、ロシア軍が航空資産を再配備しているという報告と一致している」と発表している。

 しかし、この米国高官の評価は問題だ。

 ウクライナがATACMSで攻撃すべきロシア軍の施設が再配備を指摘した飛行場以外にも233個の軍事施設(これらは再配備されていない)が存在するからだ(後述する)。

 ロバート・ゲーツ元国防長官はその回顧録「Duty: Memoirs of a Secretary of War」の中で、バイデン副大統領(当時)の外交政策を痛烈に批判し、「バイデン氏は過去40年間、外交政策と国家安全保障問題においてほぼ一度も正しかったことがない」と記述している。

 バイデン氏の不適切な言動として、1970年代に南ベトナム支援に反対したこと、イランでのシャー(国王)の排除を人権問題の改善と評価したこと、ロナルド・レーガン大統領(当時)の国防力強化に反対したことなどを列挙している。

 この指摘は、バイデン氏の国際的な意思決定に対する批判として広く知られている。

 また、バイデン大統領を国家安全保障において支えているのがジェイク・サリバン大統領顧問であるが、彼はウクライナにおいてプーチン氏の次に嫌われている人物だという。

 サリバン顧問がウクライナ戦争において「ウクライナの大勝を望まず、ロシアの敗北を回避するためにウクライナに様々な制約を課していること」が彼に対する厳しい批判の原因である。

 ちなみに、3番目に嫌われているのがバイデン大統領だという。

 結論として、バイデン氏とサリバン氏のコンビの評判は低く、彼らの主張を批判する専門家はウクライナのみならず世界中に多数存在している。