「テレグラムの運用が滞ればロシア軍の前線での作戦に影響を与える」

 ウクライナ侵攻作戦が消極的だと自身のテレグラムチャンネルでプーチンや露国防省を公然と批判し「プーチンの指導力は戦争に勝つのに十分な強さも決断力もない」「国防省は無能で作戦を誤った」とこき下ろし続けたため、昨年7月逮捕され、今年になって刑期4年が言い渡された。

 クレムリンはテレグラム上の超国家主義的愛国者の情報空間を支配するため、忠実な軍事ブロガーのグループを作り上げつつある。ロシアの軍事ブロガーやその他のグループがテレグラムからプーチンの側近が支配するVKにアカウントを移せば、情報管制はさらに強化される。

 米シンクタンク「戦争研究所」(ISW)によると、ロシアの軍事ブロガーは今回の逮捕について「ウクライナ戦争でロシア軍兵士がいかにテレグラムを含むアドホックな通信に依存しているかに注目し、ロシア軍司令部に適切な公式通信システムを確立するよう求めた」と指摘している。

「ロシア国内でテレグラムが引き続き運用できるのかどうかが突然、不明確になった。テレグラムの運用が滞れば、ロシア軍の前線での作戦に影響を与える可能性が高い。完全にブロックされれば、短期的にはロシア軍の作戦を低下させることになる」(ISW)という。

 プーチンがテレグラムを閉鎖に追い込まなかった最大の理由はここにありそうだ。ドゥロフ容疑者の逮捕がウクライナ戦争にどんな影響を与えるのかは予測不能だ。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。