(堀井 六郎:昭和歌謡研究家)
昭和歌謡研究家・堀井六郎氏はスポーツライターとしての顔もあります。とくに競馬は1970年から今日まで、名馬の名勝負を見つめ続けてきました。堀井氏が語る名馬伝説の連載です。
かつて「種牡馬の墓場」と揶揄された日本から「世界一の名馬」出現
競馬をギャンブルの対象としているファンの人にとって、強すぎるがゆえあまり魅力的な馬ではありませんでしたが、レースぶりが安定していて大負けすることがないという点で私が高く評価し、最も安心して見ていられた名馬といえば、昭和59年(1984)、無敗でクラシック三冠馬となったシンボリルドルフです。
日本に敵がいなくなった満5歳の春、ルドルフは米国に遠征します。カリフォルニアのサンタアニタパーク競馬場で行われたサンルイレイハンデキャップレースに出走、現地でも日本の最強馬として伝えられ、3番人気となりましたが、結果は6着でした。
レース中に故障したとはいえ、日本馬と外国馬との彼我の実力差を見せつけられたような気がして、当時のファンとしてはかなり落胆した記憶が残っています。
昭和56年(1981)のジャパンカップ創設当時、海外の競馬関係者が日本の競馬や血統背景を揶揄して「競走馬の墓場」「種牡馬の墓場」と称していた悔しい記憶とともに甦ります。
あれから40年。綾小路きみまろやボブ・ディランではありませんが、時代は大きく変わりました。今や、世界の競走馬を格付けしている国際機関が発表した「2023 ワールド・ベスト・レースホース・ランキング」で、ダントツの第1位に輝いている馬は日本の馬、という時代になったのです(日本馬としては2014年のジャスタウェイに次ぐ2頭目の誕生です)。
その名は、イクイノックス(equinox=分岐点、分点。天の赤道と黄道の交点。つまり、春分・秋分といった意味合いです)。
すでに昨年、同馬は引退していますが、10戦して8勝、2着2回という好成績を残しています。しかし、三冠馬ではありませんでした。2022年3歳時のクラシック三冠レースの皐月賞とダービーで、2着に甘んじています。
まさにこの2戦が分岐点になったが如く、その後の成績が凄すぎる。特に翌年、4歳時に出走したドバイシーマクラシック(ドバイへの海外遠征)、宝塚記念、天皇賞(秋)、ジャパンカップの4レースはこの年の「2023 ワールド・レース・ランキング」(レースの世界的格付けです)でベストテンに入っているG1の中のG1レースといえるものでした。
ご参考までに、G1レースランキングの第1位がジャパンカップ、2位がドバイシーマクラシック、5位が宝塚記念、6位が天皇賞(秋)となっています。
つまり、レース格付けでは、あの名高いジャック・ル・マロワ賞(仏)やブリーダーズカップ(米)よりレースとして高く評価されたレースに出走して4戦全勝しているのです。