歴代最強馬に勝った2頭の戦歴と今後

 結局、イクイノックスはこの年限りで引退してしまいましたから、同馬が生涯で先着を許したのは皐月賞とダービー2着のときの優勝馬、ジオグリフとドウデュースの2頭のみです。

 皐月賞では5番人気のジオグリフが1馬身差で勝利し、ダービーでは3番人気だったドウデュースがイクイノックスに首の差だけ先着しています。

 当時、イクイノックスは皐月賞3番人気、ダービー2番人気と、まだ確たる評価が定まっていませんでしたが、皐月賞・ダービーとも大外枠からの僅差負けということで、その実力が認められ、以降の6戦はすべて1番人気で勝利しています。

 後年、ジオグリフとドウデュースの2頭はそれぞれ皐月賞馬、ダービー馬という勲章以上に、「歴代最強馬を負かせた馬」ということで名を残すことになるかもしれません。2頭の戦歴を紹介しましょう。

●ジオグリフ

2023年3月22日、ドバイWCデー、ジオグリフの調教の様子 写真/REX/アフロ

 5歳馬、現役。2024年8月12日現在、16戦3勝。16戦のうち、香港、サウジアラビア、ドバイへの海外遠征で大きなレースを3戦し、6着(香港カップ)、4着(サウジカップ)、11着(ドバイ・ワールドカップ)という成績でした。馬名のジオグリフ(Geoglyph)は母馬の馬名「ナスカ」からイメージされた「地上絵」を意味しています。

 皐月賞以後、2年以上勝利から遠ざかったまま8月18日の札幌記念に出走。3番人気でしたが、本命のプログノーシスがコケて2着入線(優勝はノースブリッジ)。当日の『日刊スポーツ』では「イクイノックス、ドウデュースの最強世代で皐月賞を制した馬」として、ジオグリフを本命に推している記者もいました。

 残念ながら、勝つところまではいきませんでしたが、まだまだ忘れられた存在ではないことを証明、次走が楽しみになりました。

●ドウデュース

2023年12月24日、有馬記念で優勝したドウデュース 写真/伊藤 康夫/アフロ

 5歳馬、現役。同じく現在まで、14戦6勝。ジオグリフ同様、海外遠征を経験、パリやドバイで大きなレースに出走、4着(ニエル賞)、19着(凱旋門賞)、5着(ドバイターフ)という結果で、残念ながらこちらも勝利から見放されています。馬名の「デュース」はテニスやバレーボールでセット終盤、同点になった際に使用される「デュース=deuce」から採用され、「同点(do deuce)にして勝て」といった思いから、馬主さんの「並んで差し切れ」という願望が含まれていたのかも。

 ドウデュースの戦歴を振り返ってみると、全14戦6勝のうち、G1勝利3勝はすべて3~4コーナーまで後方に待機し、直線半ばで先頭集団に並んでゴール前で見事に差し切るというレースを披露してくれています。

 現在、同馬の「ワールド・ベスト・レースホース・ランキング」は第10位となっています。

 5歳になったジオグリフとドウデュースですが、すでにジオグリフは今年になって4戦を消化、残念ながらいまだに勝ちきれず、前述のように最後に勝利したのはイクイノックスに先着した2年前の皐月賞でした。

 一方、ドウデュースは昨年の有馬記念に見事勝利し、余勢を駆って今春ドバイに遠征しましたが、5着(ドバイターフ)、その後帰国して6月の宝塚記念に出走し6着、どちらも結果を残せず、1番人気に応えていません。

 この秋、ドウデュースには天皇賞、ジャパンカップ、有馬記念の3レースに出走して引退、というレールが敷かれています。

 ドウデュースの父馬ハーツクライは2005年の有馬記念で当時無敵と言われていた一歳年下のディープインパクトに先着、国内レースでディープに唯一汚点を与えた曲者でもありました。

 ドウデュースが格上だったイクイノックスに土をつけたのも父の血が騒いだからかもしれませんね。

 世界一の馬に苦杯をなめさせた2頭が主役に返り咲くのか脇役に徹してしまうのか、このあと引退への道をどう歩んでいくのか──自らの人生と重ねつつ、馬券を買わずともひそかに応援してみる。これもまた競馬の楽しみの一つなのです。 

(編集協力:春燈社 小西眞由美)