服部良一(1970年) 写真/共同通信社

(堀井 六郎:昭和歌謡研究家)

◉没後30年、舶来風昭和歌謡の牽引者・服部良一の人と仕事、そして遺産(1)

名曲の背景にある編曲への気概

 私の手元に、服部良一作品を収録した古い3枚組CDがあります。『服部良一─僕の音楽人生─』と題された、平成元年(1989)1月に発売された愛聴盤です。

 服部が生涯に残した作品が3000曲以上とされる中で、このCDに収録されている全63曲というのはごく一部でしかありませんが、そのうち62曲が服部良一自身の編曲となっています。

 服部自身が編曲していない曲というのは、CDの最後に収録されている『あじさい旅情』(編曲・佐伯亮、歌・島倉千代子)で、すでに歌謡界が筒美京平の時代となっていた昭和48年(1973)の作品なので、ヒット曲を量産していた昭和30年代までの服部歌謡はほとんど自らが編曲を手掛けています。

 こうした背景には、作品に対する服部の真摯な姿勢、音楽への愛情が如実に表われている、と私は思っています。自らが生み出した曲は前奏・間奏・後奏、そして歌のバックに流れる旋律(裏メロ)まで、すべて自らが責任をもって人々のもとへ届ける、という気概を感じます。

 歌詞に乗せるメロディーを創作するだけでなく、歌手の歌声と演奏を最高の楽曲として人々に伝えるために最大の努力を尽くしていた証でしょう。