2017年12月24日、有馬記念(G1)で優勝したキタサンブラック 写真/中原義史/アフロ

(堀井 六郎:昭和歌謡研究家)

昭和歌謡研究家・堀井六郎氏はスポーツライターとしての顔もあります。とくに競馬は1970年から今日まで、名馬の名勝負を見つめ続けてきました。堀井氏が語る名馬伝説の連載がスタートします。

あの日のレースが甦る、想い出の名馬たち

 若葉の緑が目にまぶしい新緑の季節がやってきました。都会のビルの谷間で仕事をしている私にとって、広々とした競馬場の青い空の下、緑の芝生の上を疾走するサラブレッドの姿を目にしたくなる季節でもあります。

 学生時代に私が初めて馬券を買ってから早や半世紀がたちました。当時は、ちょうどハイセイコーという超人気馬が活躍し出した頃で、その1年前から競馬の楽しみを知った私をズブリと沼にはめこませたのもハイセイコーでした。

 その後、テスコガビー、オグリキャップ、サイレンススズカ、ディープインパクト、ウォッカ、オルフェーブルといった人気と実力を兼ね備えた馬たちが次々に登場、私だけでなく、多くの競馬ファンの胸を躍らせてくれました。

 オグリキャップにほれ込んだ当時、オグリの出身地である岐阜県の笠松競馬場を尋ねたり、朝いちばんの電車に乗って東京競馬場に向かい、ジャパンカップのレース直前調教を見に行ったことなどがなつかしく思い出されます。

 馬たちの疾走の陰には血統を背景にしたドラマやライバルたちとの因縁があったりしますが、その頃の自分の姿・境遇や思い出を重ね合わせることもできるのです。

 人生を競馬にたとえた寺山修司は、私に競馬の別の楽しみを与えてくれました。『馬敗れて草原あり』『旅路の果て』など多くの競馬エッセイを読みあさり、レースを物語に仕立て出走馬を出演者になぞる寺山劇場にのめり込んだのも、競馬という存在があったからでした。

 この連載では、そんな私の記憶の中から心に残る馬たちを紹介していこうと思います。初回はG1レースで7勝を挙げた、キタサンブラックです。