(堀井 六郎:昭和歌謡研究家)
「喜劇王・エノケン」を知っていますか
昨年(2023年)10月から始まったNHKの朝ドラ『ブギウギ』の評判がよろしいようで、淡谷のり子、笠置シヅ子など戦前・戦後の昭和歌謡を愛する者としてはうれしい限りです。
ドラマのモデルとなった人物として、そのほかにも服部良一、吉本穎右(えいすけ。吉本興業の御曹司)、吉本せい(吉本興業の創業者)らが登場していますが、年が明けた1月第3週からそこに加わってきたのが、「エノケン」の愛称で知られた喜劇俳優・榎本健一です。
朝ドラでは、生瀬勝久が棚橋健二、通称「タナケン」として演じていますが、初登場シーンを見たところ、このタナケンさん、仏頂面で愛想がよくない。そのうえ生瀬が180センチ近くある長身なので、どうしても、あの小柄で機敏なエノケンのイメージと重ならなくて戸惑いました。
『ブギウギ』の脚本家や演出家はエノケンの生前には生まれていなくても、それなりに調べたはずでしょうから、これはあえてそうした設定・演出をしたように思えます。
当時のエノケンそのもののような人物が登場してくるとなると、その存在感は半端なく、主人公・笠置シヅ子の印象が薄れてしまうことを恐れたのではないか、と勘ぐったりしてしまいます。
なぜならエノケンといえば、戦前戦後を通じ「エノケンの~」と題された主演映画が40本以上も製作され、「エノケン」の名前があれば、映画も演劇も大ヒット間違いなし、日本一の喜劇役者だったのですから。
それほどの人気者だったため、戦時中は戦意高揚、お笑い統制のため「エノケン」の冠を使わせてもらえませんでした。