エノケンが歌えばCMソングも人気に
エノケンの評伝や紹介記事に当たると、肩書が「喜劇俳優、歌手」となっていて、俳優だけではなく歌手の二文字が記されています。
エノケンの絶頂期であった昭和10年代にはもちろんテレビなどはありませんから、映画での人気とともに、レコードやラジオによる歌い手としての存在感があったという証でしょう。
なにしろあの唯一無二のダミ声には、一度聴いたら耳から離れないような魔力が潜んでいたのですから。
後年、エノケンはテレビCMに登場しますが、記憶に鮮明なのはその歌声です。
昭和33年に渡辺製菓から発売された「渡辺のジュースの素」をご存知の方は、70代以上のみなさんかもしれませんが、一袋5円という価格だったので(もちろん消費税なんてない時代)、一日のお小遣いが10円しかもらえなかった小学生でも購入できました。
袋の中のオレンジ色の粉をコップに入れて水を注ぎ、お箸でかきまわせば(マドラーなどという外来語をまだ知らない時代)、オレンジジュースの出来上がりというわけで、たとえ人工甘味料のチクロが含まれていたとしても、子供たちには人気がありました。
その人気を呼ぶ一因ともなったのが、エノケンの歌うテレビコマーシャルです。
エノケンの歌声は一度耳にすると、誰もが忘れられなくなってしまうのでした。
(参考)
『エノケンと呼ばれた男』(井崎博之著、講談社)
『榎本健一 喜劇こそわが命』(榎本健一編、日本図書センター)
『エノケンと〈東京喜劇〉の黄金時代』(東京喜劇研究会編、論創社)『エノケンと菊谷栄』(山口昌男著、晶文社)
『エノケン芸道一代』等のCD類
(編集協力:春燈社 小西眞由美)