日本人の夏の定番行事と言えば「お盆」。田舎に実家のある人々は、帰省した折に仏壇に手を合わせお墓参りに行く。夜はご先祖様の魂が、道に迷わず家に帰り着けるようにと迎え火を焚く。こうした風習は仏教のものというイメージがあるが、神道にもお盆のような行事はあるのだろうか。また神道の本家本元ともいえる皇室には、祖先に思いをはせるお盆の儀式は行うのだろうか──。皇室ライターで西武文理大学非常勤講師の、つげのり子氏が知られざる皇室のお盆に迫った。(JBpress編集部)
「光る君へ」でも描かれている平安貴族の宗教的な祈りの行為
世界初の長編小説と言われる紫式部の「源氏物語」をもとにしたNHK大河ドラマ、「光る君へ」がいよいよ中盤の佳境を迎えつつある。
宮中での権力を巡る暗闘の陰で女性たちの思惑も渦巻き、そこにまひろ(紫式部)が書きつづった「源氏物語」が、波紋を巻き起こすストーリーへと展開していくようだ。
そうしたドラマの大筋の中で見逃せないのが、平安貴族の生活の中に根差した神秘的な慣習だ。
例えば、中宮定子が皇女を出産する際、邪気を祓って安産を願う「鳴弦(めいげん)の儀」が映し出されていた。これは、矢をつがえず弓の弦を弾いて音を鳴らす儀式で、シチュエーションこそ違うが、「枕草子」にも弓を鳴らす場面が登場する。
これは空気を震わす弓の音が、邪なる気配を取り除き、また怨霊・悪鬼から身を守るため、平安時代から安産や病気快癒の祈願、不吉な穢(けが)れの祓いなどで行われるようになったという。
一方、「光る君へ」の中には、藤原道長の政敵である藤原伊周(これちか)が、木製の人形(ひとがた)に道長の名を書いて、小刀で削る場面も出てくる。明らかに呪詛によって、道長を呪い殺そうとする場面なのだが、前述の邪気祓いの儀式も人形による呪詛も、陰陽道の超自然的力に頼った、運命打開のひとつの方策であった。
陰陽道と言えば、真っ先に思い出すのが安倍晴明。ドラマの中にも登場するが、その能力は不気味なほど強く、公卿たちから頼りにされている。そもそもこの陰陽道、もとをただせば中国伝来の占術・天文学に、道教、神道、仏教など、多様な宗教の影響を受け、人知を超えて災難や病気を回避したり、天候や寿命をもコントロールしたり、特殊な能力として当時の人々に受け入れられていたのである。
陰陽道の祈祷や呪詛は、霊魂・神・鬼・怨霊などが信じられていた時代の、必要不可欠な救いでもあった。
その後、こうした宗教的な祈りの行為は、神道では祈願やお清めとして継承され、仏教においても護摩を焚いて加持祈祷を行う密教の儀式でも行われるようになる。長い歴史の中で、陰陽道も神道も仏教も互いに影響し合い、一部は融合しつつ現代につながり、日本独自の宗教観を作り出したと言われている。