三笠宮家の彬子さまが体験された、故人に思いを寄せるお盆の風習

 夏になると、各地でご先祖の霊を迎えるお盆の行事が営まれる。

 実はこのお盆、「盂蘭盆会(うらぼんえ)」というれっきとした仏教の儀式だと誰もが考えがちだが、神道でも、ご先祖様の御霊をお祀りする「祖霊祭祀(それいさいし)」が執り行われ、神々とご先祖様にお護りいただくことにより、平安な日常を過ごすことができると考えられてきたという。

 都内神社の神職の方に、神道と仏教のお盆について話を伺った。

「元来、お盆には『神道』『仏教』の明確な区別はなく、神道や仏教、儒教といった儀礼的な部分を超越した日本独自の祖先に対する信仰というものが根底にあり、それらの夏の時期の祖先祭祀が『神道』や『仏教』といった形を得て現代まで続いている、という表現が正しいと思います」

 現在の神社神道においては、お盆に関するお祭りが仏教ほど明確に定められているわけではなく、各地方によってさまざまなご先祖様に対する考え方やお祭りの様式があるという。

 それら全国各地に残るお盆の風習は、長い歴史の中で他の宗教と交じり合いながら、日本人の心にずっと宿してきた「祖先信仰」「祖先崇拝」が、根強く継承されてきたものなのだとか。

 では、神道の本家とも言える皇室でも、神道の「お盆」の行事が行われているのだろうか。

 その一端を知る手掛かりが、日本文化を発信する月刊誌『和楽』に掲載された、三笠宮家の彬子さまのエッセイだ。

〈近代の宮廷文化の研究をするようになり、明治のころは御所でもお盆行事をされていたことを知ったのである。7月13日から15日の間、生御霊(いきみたま)の御祝というのが行われていたのだそうだ〉(小学館 『和楽web』より)

 なんと御所でも「お盆」にまつわる行事が行われていたという。

 どのような風習が受け継がれていたのかというと、天皇皇后両陛下に対して、皇太子同妃両殿下をはじめ、皇族方などから提灯が献上され、それを御所の縁側に吊るして灯をともしていたという。

 ただし、「盂蘭盆会」は、亡くなった方やご先祖を偲び、その御霊がお盆の時期に戻ってくると考えられているのに対して、神道の「生御霊(いきみたま)の御祝」は、お盆の前に両親が揃っていることを祝うものであったらしい。

 しかし、彬子さまは皇室の中で、故人に思いを寄せるお盆の風習を体験されている。お父様の寛仁親王殿下が薨去された後の初盆に、天皇陛下や皇太子殿下、それに各宮家から提灯が届けられたという。

三笠宮寛仁さま三笠宮寛仁さま(2012年、写真:共同通信社)

 その提灯には、故人を偲び宮号の由来となった奈良の三笠山や、殿下のお印の柏の模様などが描かれていた。それらは神道において祖先の霊を祀るための神棚である「御霊舎(みたまや)」を美しく彩っていたという。

 そして、彬子さまは神道と仏教の皇室における関係性について、こうも述べている。

〈明治になり、儀式は神道に統一されたけれど、(中略)、歴代天皇の多くは仏教を信仰されている。表向きは神道になっても、内内でこうして仏式の行事が続けられていたことは、とても自然なことなのだろう〉(小学館 『和楽web』より)

ラグビーW杯を観戦される三笠宮彬子さまラグビーW杯を観戦される三笠宮彬子さま(2023年9月17日、写真:ゲッティ/共同通信イメージズ)