セントエドワード王の王冠を描いたアート・インスタレーション(ロンドン、写真:AP/アフロ)

(つげ のり子:放送作家、皇室ライター)

ナポレオンの戴冠式は「王冠」を被らなかった?

 世界最大級の規模を誇るパリのルーヴル美術館には、あの「モナリザ」をはじめ、数多くの名画が展示・所蔵されているが、その中でひときわ目を引く大作がある。

 それが横9.79m・縦6.21mもの巨大な歴史画、「ナポレオン一世の戴冠式」だ。

 一介の軍人からフランス皇帝までのし上がった“英雄”、ナポレオン・ボナパルトが、国家の独裁的頂点に君臨する瞬間を描き、画面から伝わる荘厳な迫力は、今も色あせてはいない。

 しかし、「ナポレオン一世の戴冠式」と呼ばれているものの、この絵画はナポレオンが王冠を被る場面ではない。なんと妻のジョセフィーヌに冠を授けている場面を切り取っているのだ。

 戴冠式とは、その言葉の通り冠を頭上に戴くセレモニーであるにもかかわらず、主役のナポレオンは月桂冠をかぶり、ジョセフィーヌに今しも冠を施そうとしている。

 この時代、フランスでは王位に就く場合ローマ教皇を招き、教皇から王冠を授けてもらうことが通例であったが、ナポレオンはどんな権威よりも自らが上であるとして、これを拒否。しかし、それでは絵にならないため、やむなくジョセフィーヌに冠を授けたという演出にしたのだという。

 それだけナポレオンは、皇帝の権威を絶対不可侵なものとして、絵画にしたのだ。国を統べる王や皇帝には、威厳を高め権威を示すために、時に大仰な仕掛けを施すものなのかもしれない。