「hide MODEL MG-420S HY」現在は受注停止中

(冬将軍:音楽ライター)

90年代から現在までの、さまざまなヴィジュアル系アーティストにスポットを当て、その魅力やそこに纏わるエピソードを紹介していくコラム。今回はバンドではなく、日本を代表するギターメーカー、フェルナンデスについて。日本のロックシーンと切り離せないフェルナンデスとアーティストモデルについて紐解く。(JBpress)

日本のロックシーンの発展とともにあったフェルナンデス

 日本を代表するギターメーカー、フェルナンデス(株式会社フェルナンデス)が2024年7月11日までに事業を停止、自己破産手続開始の申立を行う予定であることを発表。このニュースは多くのギター愛好家と様々なアーティストに衝撃が走った。

 布袋寅泰、hide、BUCK-TICK……フェルナンデスと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、奇抜で個性的なアーティストシグネチャーモデルではないだろうか。フェルナンデスのアーティストシグネチャーのギター&ベースを見れば、そのアーティストの姿が思い浮かぶ。それほどにシグネチャーモデルはアーティストを象徴するアイコンと呼べるべきものだ。

 フェルナンデスのアーティストシグネチャーは日本のロックシーンの発展と共にあったと言っていい。特に80年代後半のバンドブームから90年代のヴィジュアル系ブームにかけては、まさにアーティストシグネチャーブームでもあり、その中心にあったのがフェルナンデスだった。少年少女たちがギター&ベースを手にするきっかけになったのはもちろんのこと、楽器を弾かない音楽ファンであっても、輸入車カタログのようなフェルナンデスの超豪華なレコードジャケットサイズカタログをこぞって手に入れて眺めていたほどである。

 私自身がフェルナンデスに憧れた世代であるし、フェルナンデスの絶頂期というべき90年代後半は楽器店に勤務していた。当時、何本のフェルナンデスギターを販売しただろうか……。今回はそんな一時代を築き上げたフェルナンデスのアーティストシグネチャーモデルをヴィジュアル系シーンに特化する形で振り返ってみたい。 

アーティストモデルの先駆け、布袋モデル

 フェルナンデスのアーティストシグネチャーで代表的なものといえば幾何学模様が印象的な布袋寅泰モデル、“TE-HT”だ。

布袋寅泰「8 BEATのシルエット」(2021年)

“僕のギタリストとしての歴史に欠かせない布袋モデルは、コンコルドヘッドにEMGのピックアップと手描きの幾何学模様ペイントという、それまでのテレキャスターのイメージを一新する斬新な発想のもと、1985年にフェルナンデスの協力のもと誕生しました”

——布袋寅泰 Official Xより

 布袋本人がそう語るように、オーセンティックなテレキャスターにメタルギターのイメージの強いコンコルドヘッド、そしてローノイズが売りであったEMGアクティヴピックアップという組み合わせは当時斬新なものであり、ニューウェイヴな雰囲気を漂わせていた。

 そして、BOØWYブレイクと共にこのギターも一気に知れ渡り、幾何学模様がペイントされていないモデル“TEJ”は人気機種となった。シグネチャーとしてのバリエーションも多岐にわたり、白はBUCK-TICKの星野英彦モデル、赤はGLAYのTAKUROモデル(未発売)……など、愛用ギタリストも多かった。

GLAY「真夏の扉」(1994年)

“TEJ”を含んだ“TE”シリーズは派生モデルも多く出ている。代表的なものはD’ERLANGERのCIPHERモデル“TE-C”だろう。“TEJ”よりもヘッド形状とネック、ピックアップとブリッジ周りをトラッドなテレキャスターに近づけながら、ボディの木目が浮き立つシースルーパープルのカラーリングが美しい人気モデルだ。

 cali≠gariの桜井青が長年メインで使用しているのはこのCIPHERモデルのプロトタイプであると言われているし、CIPHERのファンであったJUDY AND MARYのTAKUYAは、同モデルの色違いを使用するなど、幅広く受け入れられたモデルである。

cali≠gari「娑婆乱打」(2011年)

 こうして、布袋が確立したテレキャスターシェイプにEMGピックアップという仕様は、シンプルながらもスタイリッシュなルックスとシャープなサウンドを持ち、多くのギタリストに影響を及ぼしている。ZI:KILLのKEN、DIR EN GREYのDIEなど、他メーカーでもフェルナンデスTEからインスパイアされたシグネチャーモデルを使用するギタリストも数多くいた。