1995年3月16日に発売されたZI:KILL『BEST BOX』のジャケット写真

(冬将軍:音楽ライター)

90年代から現在までの、さまざまなヴィジュアル系アーティストにスポットを当て、その魅力やそこに纏わるエピソードを紹介していくコラム。今回は紹介するのは“黒服系”などと呼ばれたヴィジュアル系の原型そのものとも言えるZI:KILL。デビューまでの紆余曲折から突然の解散まで、彼らがシーンに打ち立てた音楽性の魅力を紐解く。(JBpress)

ヴィジュアル系の原型そのもの

 ヴィジュアル系を語る上で絶対外すことのできないバンドといえば

 BUCK-TICK、X JAPAN、LUNA SEA、黒夢……もちろん、世代や誰に訊くのかによってその答えは異なるだろう。1990年頃からのヴィジュアル系黎明期をリアルに体感した者に問えば、必ず名前が上がるであろうバンド、それがZI:KILLだ。

 YOSHIKIを大将とする体育会系ノリのバンドが多いエクスタシーレコード所属の中では珍しく、文系の雰囲気を醸すバンドであり、イギリスのゴシックロック、ポジティヴパンクを基調としたサウンドとその佇まいは、“黒服系”などと呼ばれたヴィジュアル系の原型そのものであると言っていいだろう。そうしたイギリスからのゴシックロック、ポジティヴパンクが日本で“ポジパン”の略称で親しまれ、そこからヴィジュアル系として発展していくシーンの代表格バンドであり、さらにはオルタナティヴロックへと多様化していく時代の真っ只中に居たバンドである。

 残念ながら2024年7月現在、ZI:KILLの音源や映像は音楽ストリーミングサービスでの配信やYouTubeなどでの動画公開はされていない。だからこそ、今あえて、ZI:KILLについて語っていきたい。

ヴィジュアル系シーンに打ち立てた金字塔『CLOSE DANCE』

 ZI:KILLの名が一気に広まったのは1990年3月にリリースされたアルバム『CLOSE DANCE』だ。本作はインディーズでのリリースながらオリコンのメジャーチャートに食い込むという、当時としては異例のヒットとなった。

 1990年は、1月21日にD’ERLANGERが「DARLIN’」でメジャーデビュー。そして3月にメジャー1stアルバム『BASILISK』をリリース。D’ERLANGERのメジャーデビューの3日後の24日にBUCK-TICKがシングル「悪の華」、2月1日に同タイトルのアルバムをリリースしている。『CLOSE DANCE』はインディーズながら、そうしたメジャー2バンドのアルバムと並んで、“黒服3大アルバム”というべきほどの完成度を誇り、その影響力は計り知れない。

『CLOSE DANCE』のジャケットアートを手がけたのは、漫画家の楠本まき。当時『マーガレット』に連載されていた楠本の作品『KISSxxxx(キス)』は、多くのヴィジュアル系バンドマンとそのファンに広く親しまれていた。楠本特有の細い線で研ぎ澄まされた作画はZI:KILLの描く音楽性との親和性もバッチリで、『CLOSE DANCE』はそのアートワークともに、黒服系〜ヴィジュアル系シーンに打ち立てた金字塔アルバムになった。

『CLOSE DANCE』のジャケット写真

 ZI:KILLは1987年11月に結成。翌1988年2月にボーカル、TUSKが加入し、G-KILLからZI:KILLへと改名した。その後、XのHIDEに見出され、1989年3月、YOSHIKI主宰のエクスタシーレコード内に彼らの専用レーベル「GHOST DISK」を設立するほどの力の入れ具合で、1stアルバム『真世界〜REAL OF THE WORLD〜』をリリースする。

 時代はニューウェイヴがシーンに押し寄せていたが、ジャパメタブームの余韻もあった。そうした背景のなか、『真世界〜REAL OF THE WORLD〜』は、“ポジティヴパンク×スラッシュメタル=ポジティヴメタル”と言われるほど刺激的で斬新なものだった。

 メタリックなリフであってもディレイや空間系のエフェクターを多用した、ポジパンでニューウェイヴな空気感を醸すギター。そして、大砲のごとく撃ち鳴らされるツーバスは攻撃性の高さと同時に、斬新な音楽性を象徴するものだ。ZI:KILLはのちに、yukihiro(L’Arc~en~Ciel, ex.DIE IN CRIES)、TETSU(D’ERLANGER)、EBY(のちにex.AUTO-MODほか)と、シーン屈指のテクニカルドラマーが在籍することになるのだが、本作で叩いているMASAMIは、歴代ドラマーの中でもっともメタル度の高いドラミングで攻めている。

 そして、シーンにおいてZI:KILLの存在を決定づけたのが先述の『CLOSE DANCE』だ。前作で強かったメタル色は影を潜め、ゴシックでニューウェイヴの雰囲気が支配している。KENのギターは「LAST THIS TIME」でのイントロのディレイギター、「HYSTERIC」のエッジの効いた裏打ちなど、そのままヴィジュアル系ロックギタースタイルの雛形になるスタイルを聴かせ、SEIICHIの硬派なスタイルと硬質なサウンドのベースは、ロックバンドにおける土台としてその存在感を強くしている。

 そうしたギターとベースがその独特な雰囲気を作り出す中で、無機的で人間業とは思えぬyukihiroのドラミングが、ZI:KILLというバンドならではの音像空間を作り出している。D’ERLANGERのギタリスト、CIPHERがタイトルを付けた「I 4u」(読み方:アイ・フォー・ユー)の浮遊感は、本作を象徴するものだろう。