(文:小黒一正)
厚生労働省が2023年版の人口動態統計を発表し、東京都の「合計特殊出生率(概数)」が0.99と初めて1を切って全国最下位を記録した。人口の東京一極集中は少子化の原因としてやり玉に挙げられがちだが、「平均出生率」で計算すると東京都を下回る県も存在する。東京への人口流入が国全体の出生率を低下させているという「東京ブラックホール」論は本当に正しいのだろうか。
2024年6月上旬、厚生労働省は、2023年の人口動態統計(概数)を公表。日本全体の合計特殊出生率が過去最低の1.20に低下し、特に東京都では初めて1を切り、0.99になる可能性が明らかになった。
この話はニュースでも大々的に取り上げられている。テレビ等では、「日本の合計特殊出生率が低いのは、出生率が低い東京に出産可能な女性が集まるためである」という識者のコメントもあった。時には「東京ブラックホール」などという言葉で語られるこうした解釈は、はたして事実なのだろうか。
結論からいうと、これは誤解である。少子化問題の理解には一つの指標で判断するのではなく、複合的な視点が必要になる。以下では学生と教授との問答形式で「東京ブラックホール」論を深く考察してみよう。
平均出生率で見ると東京は最下位ではない
学生 東京都の合計特殊出生率が都道府県ランキングで最下位なのは事実ですか?
教授 その通り。ランキングの中身は正しい。確かに、記事冒頭にあげた2023年の人口動態統計では、47都道府県のうち合計特殊出生率の最高位は沖縄で1.60、最下位は東京で0.99です。2020年の人口動態統計(確報)でも、若干数値は異なりますが、東京は最下位の47位です(図表1)。
ただ別のデータからは、異なる風景が見えてきます。
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