上智大学経済学部の中里透准教授は、2020年の国勢調査をもとに本質的な指摘をしています。都道府県別の平均出生率(出産可能な15歳―49歳の女性人口1000人当たりの出生数)を計算すると、最高は沖縄の48.9、第2位は宮崎の40.7ですが、東京の平均出生率は31.5で、42位。この指標の「出産可能な女性人口」は未婚の女性も含むものですが、東京は最下位ではないのです。

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 東京の前後を見ると、40位は岩手(32.4)、41位は青森(32.2)。43位以下には奈良(31.4)、宮城(31.1)、京都(31)、北海道(30.8)が並び、最下位は秋田(29.3)となります(図表2)。

図表2:出産可能な女性人口(15歳―49歳)1000人当たりの出生数 (出所)総務省(2021)「令和2年(2020年)国勢調査」から筆者作成(左の緑の棒が東京、右の緑の棒が東京都特別区部、黄色の棒が東京都心3区)図表2:出産可能な女性人口(15歳―49歳)1000人当たりの出生数 (出所)総務省(2021)「令和2年(2020年)国勢調査」から筆者作成(左の緑の棒が東京、右の緑の棒が東京都特別区部、黄色の棒が東京都心3区)
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 実は、東京の都心3区(千代田区・港区・中央区)に限定すると、平均出生率は41.7で、沖縄に次ぐ2位にランクします。さらに都心3区のうち中央区だけを見ると、平均出生率は45.4にもなります。

学生 確かに驚きですね。なぜこのような違いが生まれるのでしょうか。

教授 合計特殊出生率の計算方法の特性にカラクリがあります。

 合計特殊出生率の定義は「1人の女性が生涯に生む平均的な子どもの数」。ただ具体的には年齢別出生率を合計して計算しています。この計算方法によって奇妙なことが起こるのです。

 例えば、「20代と30代の女性しかいない地域」があるとします。そのような地域Aで、たとえば20代の女性100人が赤ちゃん30人、30代の女性100人が60人を出産するとします。

 同じく地域Bでは20代の女性20人が赤ちゃん20人、30代の女性80人が20人を出産するとします。

 ちなみに合計特殊出生率を厳密に計算する場合、1歳刻みでの年齢別出生率を合計しますが、議論を簡略化するため、10歳刻みの出生率を年齢別出生率とします。

 地域Aの20代の年齢別出生率は0.3(=30÷100)、30代の年齢別出生率は0.6(=60÷100)ですので、地域Aの合計特殊出生率は、両者を合計した0.9(=0.3+0.6)となります。

 同様に、地域Bの合計特殊出生率は1.25(=20÷20+20÷80)となり、地域Aよりも地域Bの合計特殊出生率のほうが高いという結果になります。

 しかし、女性「1人当たり」の平均出生率を計算すると、まったく違う結果となります。地域Aが0.45(=90÷200)、地域Bが0.4(=40÷100)で、地域Aの方が高くなるのです。

学生 扱うデータは同じなのに、合計特殊出生率と平均出生率の計算方法の違いで順位が逆転するのですね。

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