ふるさと納税を通じた全国の自治体への寄付総額が2023年度に初めて1兆円を超えたと報道された。制度がスタートした2008年度の寄付額81億円の、実に123倍に上る。しかし、利用が拡大する半面、近年は人口の多い自治体から住民税が“流出”するといった制度のひずみも指摘される。一方、利用者にとっての懸念は、2025年10月から寄付にポイントを付与する仲介業者の利用が禁じられる問題だ。楽天ふるさと納税が反対の署名活動を行うのに対し、ふるさとチョイスの運営会社はポイント付与禁止に理解を示すなど、業者サイドの対応も真っ二つに分かれている。
(森田 聡子:フリーライター・編集者)
都市部では住民税流出ラッシュに悩む自治体も
ふるさと納税は、故郷や応援したい自治体に寄付をすると、総寄付額から2000円を引いた額を本来払うべき所得税や住民税から控除してもらえる制度だ。多くの自治体では地域の特産品や地域で利用できるサービスなどの返礼品を用意しており、寄付した人にとってはもらった返礼品と2000円との差額が“利益”となる。
しかし、利用者や寄付額が増え、制度が多様化していくにつれて課題も浮き彫りになっている。分かりやすいのが自治体間に生じた格差だ。
ふるさと納税の寄付ランキング上位で財政規模があまり大きくない自治体だと、寄付金が税収の半分近くを占めているところもある。その意味では、中央と地方の税収格差の解消を図るという当初の目的はある程度達成されていると言える。
半面、都市部の人口の多い自治体は、ふるさと納税による住民税流出ラッシュに悩まされている。
2023年度の流出が多い上位5自治体は、①横浜市、②名古屋市、③大阪市、④川崎市、⑤世田谷区だった。このうち横浜市や名古屋市、大阪市は地方交付税の交付団体のため、流出額の75%は次年度に地方交付税から補填される。しかし、不交付団体の川崎市や世田谷区は流出分が収入減に直結する。
川崎市や世田谷区は近年、返礼品を拡充して寄付を呼び込む努力をしてきたが、それでも寄付額を上回る流出が続いており、「このままでは行政サービスが維持できなくなる」と危機感を募らせている。
こうした自治体間の分断に加え、今度は仲介業者の間にも新たな分断が生じている。