ジョブ型人事や人的資本経営ブームで勢いづく外来種「セイカシュギ虫」(イラスト:きしらまゆこ)
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  • あなたの仕事がうまく回らないのは、職場に巣食う「害虫」のせいである――。全体最適のマネジメント理論TOC(Theory of Constraints=制約理論)の第一人者、岸良裕司氏(ゴールドラット・ジャパンCEO)が、会社を停滞させる構造的な問題を害虫に見立て、その特徴と対処の仕方を、実例を基に伝授する。
  • 最終回は、ジョブ型人事や人的資本経営ブームで勢いづく外来種「セイカシュギ虫」。評価への不満が職場に蔓延し従業員のモチベーションが低下。業績の足かせとなる害虫だ。
  • そもそも評価対象の「過去」を変えることはできない。むしろ、変えられる「未来」に目をむける「成長主義」こそが、人的資本経営の本丸だ。(JBpress)

(岸良裕司:ゴールドラット・ジャパンCEO)

名称:セイカシュギ虫
職場へのダメージ:★★★★★(最恐で最悪)
主な生息地
:「年功序列制度」の問題を退治する益虫として1990年代に海外から持ち込まれた外来種。欧米の成果主義を「先進的」と盲信する日本企業の人事部門で増殖し、今では日本中の職場に蔓延している。手がアメとムチのような形状になっているのが特徴で見つけるのは容易である。
特徴:評価に対する不満、モチベーションの低下、個人主義の横行など職場に大きなストレスを巻き起こし、現場を疲弊させる。特に、人事評価の季節に大量発生し、職場の風土を破壊的に悪化させる。成果主義のプレッシャーから、目標を低めに設定してしまうことで成長の障害になる。

「セイカシュギ虫」が引き起こす恐ろしい副作用

「こんな理不尽な会社、もう辞めたい……」

 評価の季節になる度にこんな思いに駆られたことがあるなら、あなたの職場に「セイカシュギ虫」がすでに蔓延している可能性が高い。

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 セイカシュギ虫は、年功序列を採用してきた日本企業が膨れ上がった人件費を抑制するために、欧米流の成果主義とともに広がった外来種だ。成果主義は、成果に見合った賃金により社員一人ひとりのモチベーションを高める一方、成果の上がらない社員への給与は抑制できるというふれこみだった。ところが、日本の職場に導入すると、セイカシュギ虫が様々な副作用をもたらすことが明らかになった。

岸良 裕司(きしら・ゆうじ)  ゴールドラット・ジャパン最高経営責任者(CEO)
全体最適のマネジメント理論TOC(Theory Of Constraint:制約理論)の第一人者。2008年4月、ゴールドラット博士に請われて、イスラエル本国のゴールドラット・コンサルティング・ディレクターに就任。主な著書・監修書は『ザ・ゴール コミック版』(ダイヤモンド社)、『優れた発想はなぜゴミ箱に捨てられるのか』(ダイヤモンド社)、『子どもの考える力をつける3つの秘密道具』(ナツメ社)など。東京大学MMRC 非常勤講師、国土交通大学 非常勤講師、国際学会発表実績多数。

 評価に対する不満、モチベーションの低下、個人主義の横行によるチームワーク崩壊などだ。激しいグローバル競争では戦う相手は世界のライバルのはずだが、セイカシュギ虫が蔓延した職場では社内の競争を強く意識するようになるためである。

 部下の評価を上げ下げするアメとムチを操り、圧倒的優位な立場にあぐらをかく上司が増殖する。結果にケチをつける「シーエー虫」に侵されたダメ上司がいる職場では問題はさらに深刻で、人事評価の季節には些細な失敗を掘り起こして部下にダメ出しを続け辟易させる。

 社員は失敗を恐れるようになり、「シッパイコワイ虫」も増殖する。その結果、皆が目標を低めに設定してしまい、各自の能力が十分に発揮されず業績向上の足かせとなる。

 こんな状況が長年続くと、激しいグローバル競争に勝てるわけもない。「失われた○○年」といったレッテルが日本の企業に貼られた真の原因は、セイカシュギ虫にあるといっても過言ではない。