- あなたの仕事がうまく回らないのは、職場に巣食う「害虫」のせいである――。全体最適のマネジメント理論TOC(Theory of Constraints=制約理論)の第一人者、岸良裕司氏(ゴールドラット・ジャパンCEO)が、会社を停滞させる構造的な問題を害虫に見立て、その特徴と対処の仕方を、実例を基に伝授する。
- 第15回は、「生成AI」や「データサイエンス」など、常にはやりの経営手法やシステムを導入していないと気が済まない「モクテキワスレ虫」。
- 目的を忘れさせる幻惑物質を分泌し、手段しか考えさせない。中毒に陥ると経営課題が放置されてしまう厄介な存在だ。生成AIの活用に躍起になっている、あなたの会社は大丈夫?(JBpress)
(岸良裕司:ゴールドラット・ジャパンCEO)
名称:モクテキワスレ虫
職場へのダメージ:★★☆☆☆
主な生息地:会社の活動スローガンに「目的」ではなく、「AIの活用」とか「DXの推進」など、「手段」が掲げられている組織に大量発生する。変異を繰り返すことで知られ、数年に1度、パンデミックのごとく流行する。甘い匂いを放つので発見は比較的容易である。
特徴:「シュダンスキ」と呼ばれる甘い匂いがする幻惑物質を分泌し、人の脳に作用して「目的」を忘れさせ、「手段」しか考えなくさせる。繰り返し発生した組織では「シュダンスキ」の甘い匂いがクセになり、常に新しい手段を注入しないと不安になる「手段中毒」を引き起こすことがある。お金と時間の無駄遣い以外の害は軽微である。
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目的を忘れさせる幻惑物質「シュダンスキ」
「DXを加速させよう」
「生成AIの活用に乗り遅れるな!」
「これからはビッグデータの時代だ!!」
「データサイエンティストを採用せよ!!!」
あなたの会社で、そんな号令はかかっていないだろうか。
IT、ICT、ERP、 MRP、SCM、CRM、SFA、Solution、Big Data、RPA、IoT、Industry 4.0、DX、AI……。新しい手法が出てくるたびにプロジェクトが立ち上がるものの、ロクな成果が出ないまま消えていく……。そんなことが繰り返されている組織には、「モクテキワスレ虫」が侵入している可能性が高い。
モクテキワスレ虫は「シュダンスキ」と呼ばれる甘い匂いがする幻惑物質を放つ。これは人の脳に作用し、目的を忘れさせ、手段のみしか考えなくさせる。ついには、手段の導入だけに夢中になり、結果はどうでもよくなってしまう。
恐ろしいのは、シュダンスキを一度嗅いでしまうと、その甘い匂いがクセになり、常に新しい「手段」を追い求める中毒症状を引き起こすことだ。
「手段と目的をはき違えるな!」
こんな常套句で中毒に陥った人を諭そうとしても、全く効果はない。むしろ、この言葉を頻繁に耳にする組織は、モクテキワスレ虫に丸ごと侵されている可能性が高く、「目的」という言葉の意味すら忘れてしまっている。
モクテキワスレ虫は何年かに1度、パンデミックのごとく大量発生する。その理由は解明されていないが、一説によると、シュダンスキの甘い匂いによって「手段中毒」に陥った組織では、しばらく新しい手法が入っていないと禁断症状となり、新しい手法が目の前に現れた途端、感染症のごとく一気に広がってしまうとされている。