知事となった斎藤氏はすぐさま県政の“改革”に乗り出す。まずはボトムアップ型の県政を目指し「新県政推進室」を設置するとしたが、実際にはそれまで幹部30人が県政の方向性を決めていたのに対し11人で行うように変更させた。つまりこの11人でなければ県政の舵取りが任せられないという構成になったのだ。

 21年12月には古くなった県庁舎の建て替え問題に対し、720億円とも試算されている建て替え計画を凍結させて耐震強化不足だけの工事ができるのかを目指すように指示を出している。また、各市町へ毎年配分していた約10億円の「ひょうご地域創成交付金」の廃止も決めており、バス対策費補助の減額も決めた。

 その政治スタイルは、既存の路線や決定に大胆に大ナタを振るい、「改革」をアピールしていく維新のスタイルに重なる部分が多かった。

「兵庫・大阪連携会議」の初会合で記念写真に収まる兵庫県の斎藤元彦知事(左)と大阪府の吉村洋文知事=2021年12月、兵庫県西宮市
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内部告発の内容を調査もせずに全面否定

 こうした中、今年3月12日付で、県議、報道機関、県警などにある文書が送られた。そこには斎藤知事によるパワーハラスメントの内容などのほか、「複数企業への贈答品のおねだり」「23年7月斎藤知事の政治資金パーティーにおける県信用保証協会理事長に対するパーティー券購入依頼」「セ・パ優勝パレードにおけるキック・バック強要」など7項目が記されていた。

 文書を送ったのは、県の西播磨県民局長を務めるA氏だった。3月末に定年退職を控えた幹部職員だった。

 兵庫県ももちろん公益通報窓口を設けている。だが通報を受け付ける県の公益通報員会のメンバー5人の中には、知事最側近の片山安孝副知事もいる。そのためA氏は当初、公益通報窓口ではなく、メディアや県議に文書を送ったと見られている(4月になるとA氏は改めて公益通報窓口に同じ内容を通報)。

 だがA氏は県に追い詰められていく。3月25日には、片山副知事と人事課長がA氏が勤務する西播磨県民局にアポなしで訪れ、A氏が業務で使用しているパソコンを押収。

 またA氏の告発に対し知事は、一切の調査をしないうちから「事実無根」「正しくない情報が多々含まれている」などと反論。さらに同月27日には、A氏を西播磨兼任局長の職から解任して総務部付とし、4日後に控えていた退職も保留すると発表した。

 斎藤氏は会見で「職員らの信用失墜、名誉毀損(きそん)など法的な課題がある。被害届や告訴も含めて法的手続きを進めている」とし、「業務時間中に噓八百含めて文書を作って流す行為は公務員として失格」と非難、被害届や告訴の準備を進めると発表した。A氏にとって、これは大きなプレッシャーだったことは想像に難くない。