内部告発によって明らかになった主な不正事案
公益通報者保護制度は日本でも少しずつ浸透してきたようです。近年、自動車関連メーカーの検査不正や雇用調整助成金などに関わる不正が相次いで表面化していますが、公益通報がきっかけだったものも少なくありません。通報がなければ今も不正が水面下で続いていたケースもかなりの数に達しただろうと思われます。
では、公益通報者保護の制度は、日本で十分に浸透し、経営者・労働者の双方で理解されるようになったのでしょうか。
就労者1万人を対象とした消費者庁の調査(2023年11月)によると、組織内の内部通報制度について「よく知っている」「ある程度知っている」は約4割にとどまりました。勤務先で重大な法令違反を目撃した場合、相談・通報しないと回答した人の割合は「たぶんしない」「絶対しない」を合わせて4割を超えています。
「公益通報によって報復された」として裁判に訴える事例も後を絶ちません。光学機器メーカーのオリンパスでは、在職中に不正を内部通報したことで左遷された」とする元社員が会社側を訴え、8年も裁判闘争を続けたことがあります。訴訟は和解(原告の実質勝訴)で終結しましたが、こうした事例を見せつけられると、「公益通報者予備軍」は二の足を踏んでしまうかもしれません。
それでも法の成立から20年が過ぎ、多くの人々が「公益通報」「内部告発」への関心を高めていることは間違いありません。「内部告発によって明らかになった」というスタイルの報道も増え続けています。
また、内部通報の制度を組織内で整えない企業は、コンプライアンスに真剣に取り組んでいないとして、評価を落とすケースも目立ってきました。紆余曲折を経ながらも、不正をただすという機運は間違いなく根を張り続けているのです。
もちろん、事業者側に甘いとされる制度の欠陥を是正することや、何があっても公益通報者を守るという使用者側と社会全体の決意が不可欠なことは言うまでもありません。
フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。