5年前に強い批判

「だいたい日本政府は何も反省していないじゃないか! なんで、経済支配の首謀者を1万円札に起用するんだ!」

 2019年の夏前。筆者は、韓国を代表するある財閥の社長、副社長クラス20人ほどが参加した「朝食会」に招かれた。

 当時は、日韓の政府間関係が険悪な時期だった。

 このグループは「こういう時期だからこそ、産業界や、企業間だけでも協力を強化したい」という趣旨でグループ幹部を集めて朝食勉強会を開くというので行ってみた。

 すると、いきなり、こういう質問とも詰問とも言えない発言が飛び出したのだ。「協力強化」どころか、外部から招いた筆者に対して「けんか腰」だったわけだ。

 当時、韓国メディアがしきりに「渋沢栄一批判」を報じていたが、それをそのままぶつけられたのだ。

 経済人である渋沢栄一批判というよりは、こういう人物を起用した安倍政権批判の色合いが濃かった気がする。

 今回も、「渋沢紙幣批判」の報道はあるが、一方で別の視点での関心も出ている。

渋沢本の登場

 筆者は最近、ソウルの大型書店「教保(キョボ)文庫」の経済書新刊コーナーの目立つ場所に積んである本を見つけた。

「渋沢栄一 日本資本主義の設計者」という本だ。5月13日発行と書いてある。

 本の表紙には「ピーター・ドラッカー、李秉喆が尊敬した経営の師」「2024年発行1万円券の主人公」と書いてある。

「渋沢栄一 日本資本主義の設計者」

 李秉喆(イ・ビョンチョル)氏は、サムスングループの創業者だ。全267ページ、1万8000ウォンの本を買って読んでみた。

 著者は、サムスン経済研究所の主席研究員出身のエコノミストであり文筆家だ。

 内容は渋沢の生涯と、「論語と算盤」から読み取れる企業哲学について詳細に、分かりやすく説明している。

 明治維新前後の日本の歴史や、三菱、三井、住友、安田、浅野、古河など日本の財閥の歴史と渋沢栄一とのかかわりについても触れている。

 パリ博覧会をその目で見た渋沢栄一が日本の明治維新以降の経済発展にいかに貢献したのか。どうしていままた注目すべきなのか。なぜ、渋沢栄一は財閥総帥にならなかったのか。

 ファクト中心にコンパクトにまとめてあり、一般の読者にとっても読みやすい本だった。

 学術書ではない一般書がこういうタイミングで出ることが少し驚きだった。