大手紙は特集記事も

 この本の著者が協力して、7月5日付の「朝鮮日報」週末版は2ページにわたって渋沢栄一の特集記事を掲載した。

 こちらの記事は、渋沢家3代目当主である渋沢雅英氏(1925年生)などへのインタビューも含めて、「渋沢栄一の経営哲学」の力点を置いて報じた。

 特に、記者は、500もの企業を設立した「日本資本主義の父」の3代目当主が質素な暮らしをしていることなどを驚きをもって報じている。

 日本を代表する大企業を次々と設立したのだから、大変な財閥か資産家になっているはずだ。こう思ったら、全く違っていたのだ。

 記事には「大韓帝国で日本の紙幣の発行を主導…経済侵略批判も」という内容もあるが、全体的には、渋沢栄一がどういう人物なのか、なぜ、いま日本の1万円札になったのか、に焦点をあてている。

CSR、SDGsで関心も

 新刊と、韓国大手紙の大きな報道・・・5年前に渋沢栄一が1万円札の図柄に決まったときには、考えられなかった変化ではある。

 韓国紙デスクは「渋沢栄一のことは韓国では一般的にほとんど知られていない。相変わらず1万円札の図柄になったことを批判する記事もあって、韓国では不愉快に思っている人も少なくはない」と前置きをしながら、「渋沢栄一がどういう人物なのか、知りたいという声も聞くようになった」という。

 その理由をこう説明した。

「日韓の政府間の関係は好転した影響で、何でも批判するという報道が減った」

「日経平均が4万円を超えるなど日本の経済や企業に注目しようという雰囲気が強まっている」

「そういう中で日本の最高額紙幣に経済人が登場するのだから、誰なのか? どういう人物なのかという関心もある」

 渋沢栄一の起用が決まった5年前と発行が始まった今とでは、日韓関係も変わった。日本経済や企業に対する関心もずっと高くなった。

 最近、大企業の役員と昼食に行ったら、「渋沢栄一に関する記事を読んだ。興味深い人物ですね」と先方から切り出してきた。

「500もの企業を興したこともすごいが、世襲もしなかった。それどころか、学校や600を超える社会貢献団体を作り、稼いだお金を社会に還元したというのが、驚いた」

「昔の第一銀行の紙幣の写真を見ると心中穏やかにはなれないが、CSR(企業の社会的責任)の重要性が高まっている今の時代に日本で注目を浴びて1万円札に起用されという事情が分かった」

 韓国の大企業も、CSRやSDGs(持続可能な開発目標)などに対する関心が急速に高まっている。

 渋沢栄一への興味はこういう点でも生じているようだ。

 5年前に別の大企業の役員から詰問されたが、この役員の反応には隔世の感があった。