国が先導しなければ少子高齢化に拍車がかかるだけ

 今回の知事選を経て東京都のトップに立つ人物が、本気になって有効な少子化対策を実行していけば、数年先には目に見える効果が期待できるかもしれないが、そこで厄介な事態が起きる。「東京一極集中」のさらなる加速だ。

 東京暮らしの生活コストが抑えられ、子育て環境が飛躍的に好転するようなことになれば、都内から転出していく親子が減るだけでなく、逆に首都圏周辺の県、自治体からの転入が増える可能性が出てくる。

 現実には、東京都では2024年度から高校授業料の無償化で所得制限が撤廃された。今後、高校入学を控えた他県の中学生とその両親らの都内への転入が増えるかどうか。子ども世代とその親の人口流入が現実になれば、東京の一極集中がさらに進むことになる。

 少子化問題改善は周辺他県・自治体との格差拡大をもたらし、結果的に東京一極集中のさらなる加速を招く──。そんな皮肉な事態まで想定されるのだ。

 こうしてみると東京都における少子化対策は、実に複雑なテーマであることが分かった。かといって手をこまねいていれば、0─14歳の子ども人口が確実に減り、高齢化に拍車がかかってしまう。

 東京における少子化対策というのはそれだけ厄介なテーマであり、ここはやはり国が先導して東京や首都圏、地方のモデルや数値目標を盛り込んだ計画を策定して実行していくのが一番だろう。現状はあまりにも悠長とし過ぎているが、手を打たない限り未来はない。

【山田 稔(やまだ・みのる)】
ジャーナリスト。1960年長野県生まれ。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。主に経済、社会、地方関連記事を執筆している。著書は『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』『分煙社会のススメ。』など。最新刊に『60歳からの山と温泉』がある。東洋経済オンラインアワード2021ソーシャルインパクト賞受賞。