本当の少子化対策とは何か?

 ここで原点に返って、少子化対策の本来の姿を考えてみたい。本来の目的は、減り続ける出生数を増加に転じさせ、将来人口の大幅な減少を食い止めることにあるはずだ。これは東京都だけでなく日本全体のテーマである。

少子化対策について方針を示す岸田首相少子化対策は東京だけでなく日本全体のテーマ(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 注意したいのは、少子化対策には出生数(出生率)以外にもうひとつ大事な観点があることだ。それは自治体にとってのテーマである。0歳から14歳の子ども人口をいかに増やすかである。実は東京都の場合、これが結構大きな課題となっているのだ。

 2023年の「住民基本台帳人口移動報告」によると、0─14歳の子ども人口(日本人)は東京都全体で年間に7553人の転出超過となっている。全年齢では5万8489人の転入超過なのに、子どもは親世代ともに“脱東京”となっている。ちなみに子ども世代の親とみられる30代、40代の転出超過は1万1634人。子どもと合わせると年間で1万9000人超に達する。

 人口動態調査では年間の出生数減少が4750人だった。つまり子どもとその両親の転出超過の方がはるかに深刻な問題となっていると言っていいかもしれない。多くの人はこの点を見落としている。

 選挙戦の直前、令和5年の人口動態調査が発表され、東京都の合計特殊出生率0.99が一躍クローズアップされ、これが少子化対策と結び付いた。だが、この「0.99問題」はちょっと冷静に見た方がいい。合計特殊出生率は、1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の指標となるデータで分母に女性の人口、分子に出生数を置いて算出しているが、二つの大きな問題がある。

 ひとつは、分母は日本人女性だけだが、分子には外国人の母が産んだ日本人の赤ちゃんも含まれるため、その分数値が大きくなる点だ。結果としてデータの上振れが指摘されている。

 もうひとつは、分母の女性の人口だが、15歳~49歳分を足しあげて算出しているが、東京には10代後半から20代にかけて進学や就職で流入してくる若い女性が多く、その大半は出産を考えていない。15歳~29歳までの女性は4万7899人もの転入超過となっている。

 逆に出産年齢に該当する30歳~44歳の女性は3688人の転出超過である。子どもをすぐに産むつもりのない若い女性が多く流入し、産む可能性のある年代は転出超過。これでは合計特殊出生率が低くなるのは当然だ。「0.99」に踊らされると実態を見誤ることになる。

 こうしてみると、東京都の少子化対策を考えるにあたって重点を置くのは「出生率」ではなく、子ども人口の流出をいかに抑えることにあるのではないか。減ってはいるものの年間8万6347人という全国トップの出生数があっても、乳児の段階から東京から出ていってしまうケースが増えている現実を直視すべきだろう。