1. これまでの和平交渉の経緯

(1)1回目の和平交渉:2022年2月28日

 ロシアとウクライナの代表団は2022年2月28日、ウクライナ国境に近いベラルーシ南部ホメリ地方で、初めての直接交渉を行った。具体的な交渉内容は公表されていない。

(2)2回目の和平交渉:2022年3月3日

 2回目の交渉はベラルーシ西部のベロベージの森で開催された。2回目の交渉で双方は人道回廊設置に合意した。

 3月5日と6日にはロシア軍が包囲する南東部マリウポリなどで住民の避難が試みられたが、周辺で戦闘がやまず、避難や人道物資の搬入は実現しなかった。

(3)3回目の和平交渉:2022年3月7日

 2回目同様、ベラルーシ西部のベロベージの森で開催された。

 ロイター通信によると、ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は停戦の条件として、ウクライナがNATOなどに属さず中立を保つよう憲法改正を求めた。

 また、クリミア半島の併合と、親ロシア派が実効支配するウクライナ東部のドネツクとルガンスクを主権国家として認めることも挙げた。

 ウクライナ側には受け入れがたい内容である。

 ロシア国防省は3月7日、ウクライナの首都キエフ、南東部の要衝マリウポリ、北東部のハリコフ、スムイの4都市で「限定的停戦」に入り、民間人避難のための「人道回廊」を設置すると発表した。

 ウクライナ当局者によると3月8日には、ウクライナ北東部の都市スムイと首都キーウ近郊のイルピンで、民間人の退避が始まった。

(4)4回目の和平交渉:2022年3月14日

 ロシアのペスコフ大統領報道官は3月13日、タス通信に対し、同国とウクライナの4回目の停戦交渉が14日にオンライン形式で開かれることを明らかにした。

 ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領府長官顧問は、3月14日午前、「互いに立場を活発に述べている。やりとりはできているが、難しい。不一致の原因は(互いの)政治体制が違いすぎることだ」とSNSに投稿した。

(5)5回目の和平交渉:2022年3月29日

 トルコ政府の仲介により、対面形式の停戦交渉が29日にトルコのイスタンブールで開催された。

 交渉は大きく次の6つの分野で行われた

①ウクライナがNATO加盟を求めず「中立化」する。
②ウクライナの「非武装化」
③ウクライナの「非ナチ化」
④ロシア語を自由に使えるようにする。
⑤ウクライナ南部クリミア半島の地位を巡る問題
⑥東部のルガンスク、ドネツク2州の地位をめぐる問題

 トルコ政府によると、①から④の4分野では合意に近づいたという。

 しかし、南部クリミアの併合承認や、親ロシア派の武装勢力が事実上支配している東部地域の独立承認などはウクライナが拒否するなど、主張の隔たりは埋まらなかった様子である。

 また、関係者の話によると、ロシアは停戦条件の一つに挙げていた「ウクライナの非ナチ化」の要求を取り下げた。

 また、ウクライナ側は2014年にロシアが一方的に併合したクリミア半島について、今後15年間で、外交手段で問題解決を図ることを提案し、領土問題を事実上棚上げする意向を示唆した。

 ロシア側はクリミアを「自国領」と主張しており、両国が即座に折り合う可能性は低いとみられる。

 以上、5回の和平協議が行われたが、既述したとおりゼレンスキー氏が多数の民間人が犠牲となったブチャを訪れた以降、和平交渉機運は急速に萎み、その後の交渉は一度も開催されていない。