中国が世界中に秘密警察署を設置していることが明らかになった(Gaston LabordeによるPixabayからの画像)

 中国共産党の海外活動を明らかにしてきたスペインに本部を置く人権NGO、「セーフガード・ディフェンダーズ」は2022年9月、「海外110番」と題する報告書で衝撃の調査報告を公表した。

 中国の福建省福州市と浙江省麗水市青田県の公安部が30カ国に54カ所の非申告の「海外警察サービスステーション」、いわゆる「秘密警察署」を設置し、国外逃亡犯などを強制的に帰国させているという。

 また、セーフガード・ディフェンダーズは、中国の秘密警察署に関連して4つの報告書を公表している。

 これらの調査報告書は、国際社会に大きな波紋を広げた(4つの調査報告書の詳細は後述する)。

 セーフガード・ディフェンダーズは、秘密警察署の活動は、在外中国人への人権侵害にとどまらず、共産党政権によるこうした活動が国際法の原則に違反し、第三国の主権を侵害していると警鐘を鳴らすとともに、民主主義国に対し、法の支配に基づく毅然とした対応を呼びかけた。

 一方、中国外務省は「中国の司法執行機関は国際ルールを厳守し、司法に関する他国の主権を全面的に尊重している」と反論し、件の報告書は「臆測と嘘に満ちている」と批判した。

 さて、2022年11月7日、セーフガード・ディフェンダーズは、中国当局が海外に設置した秘密警察署をめぐり、14カ国が調査に乗り出していると発表した。

 14カ国とは、オーストリア、カナダ、チリ、チェコ、ドイツ、アイルランド、イタリア、ナイジェリア、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、オランダ、英国、米国である。

 ちなみに、日本政府は現在時点(2024年5月)でも対応を明らかにしていない。

 松野博一官房長官(当時)は2022年12月9日の記者会見で、中国が他国で違法に警察出先機関を設置しているとされる問題について、外交ルートを通じて中国に申し入れを行ったと明らかにした。

 申し入れでは「仮に我が国の主権を侵害するような活動が行われているのであれば、断じて容認できない」と伝えたという。

 日本政府は、「主権を侵害するような活動が行われているのであれば」と言うが、筆者は、未申告の警察署をわが国領土内に設置すること自体が主権侵害であると見ている(日本の対応の詳細は後述する)。

 さらに、2023年4月17日、米当局はニューヨーク市マンハッタンのチャイナタウンで中国の秘密警察署を運営していた疑いで、同市在住の男2人を逮捕した。

 2人は米当局に知らせることなく中国政府の代理として活動することを共謀した罪のほか、司法妨害の罪に問われている。

 検察当局によると、男2人はともに米国籍で、中国の福建省出身者向けの懇親会開催などを手掛ける非営利団体を率いている。

 2018年にはそのうちの男1人が中国からの亡命者とみられる人物を説得し帰国させようとしたほか、2022年には秘密警察署の開設を手伝うと共に、カリフォルニア州に住む民主化運動活動家とされる個人の居場所を特定するよう中国政府から依頼されたという。

 米国が2人の男を逮捕したことに対して、中国外務省の汪文斌副報道局長は、翌日4月18日の定例会見で「米国は海外サービスステーションと中国の外交当局者を悪意をもって関連づけ、いわれなき非難をしているが、完全に政治操作だ。事実無根であり、いわゆる海外警察署は存在しない」と反論した。

 松野官房長官(当時)は4月18日午後の会見で、米当局が中国の秘密警察署を運営した疑いで男2人を逮捕したことに関連し、日本国内でも主権を侵害する行為が行われているのであれば、断じて認められないと外交ルートを通じて中国側に申し入れを行ったと述べた。

 また、「いずれにせよわが国での(中国による)活動の実態解明を進めているところであり、その結果に応じて適切な措置を講じる考えである」と述べた。

 さて、以下、初めにセーフガード・ディフェンダーズの概要について述べ、次にセーフガード・ディフェンダーズの4つの報告書の概要について述べる。

 次に、ニューヨーク市マンハッタンのチャイナタウンで中国の秘密警察署を運営していた疑いで同市在住の男2人が逮捕された事案に関する米司法省のプレスリリースについて述べる。

 最後に、秘密警察署に対する日本の対応に関連した神谷宗幣参議院議員の質問主意書とそれに対する答弁書の概要について述べる。