拉致問題の解決もさらに見通せず

 岸田文雄首相は、北朝鮮による日本人拉致問題の解決に向けて首脳間協議を呼びかけていますが、実現の見通しは立っていません。北方領土返還に向けた日ロ平和条約交渉もウクライナ侵攻以降ストップしたままです。ロ朝の接近でこれらの懸案解決はさらに見通せなくなりました。

 今後の東アジア情勢でカギを握るのは中国でしょう。中国は米国に対抗する点ではロ朝と立場が近いのですが、ウクライナ侵攻を続けるロシアや、安保理決議に反して核・ミサイル開発を進める北朝鮮とは一定の距離を置いています。

 ロ朝の新条約締結に関して中国は今のところ静観しています。北東アジアの安全保障の不安定化は中国にとっても望ましくありません。中国がロ朝に接近すれば、「中ロ朝」と「日米韓」という対立構図が決定的になりかねないだけに、「日米韓」と「ロ朝」の間で中国をめぐる外交的な綱引きが展開される可能性が高まっています。

西村 卓也(にしむら・たくや)
フリーランス記者。札幌市出身。早稲田大学卒業後、北海道新聞社へ。首相官邸キャップ、米ワシントン支局長、論説主幹などを歴任し、2023年からフリー。日本外国特派員協会会員。ワシントンの日本関連リサーチセンター“Asia Policy Point”シニアフェロー。「日本のいま」を世界に紹介するニュース&コメンタリー「J Update」(英文)を更新中。

フロントラインプレス
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