ところが、日本のマスコミは小池の学歴詐称疑惑には一切触れない。小池が大手マスコミから都知事秘書を採用するなどの手を打っているからであろう。また、東京都には、マスコミをはじめ大企業には垂涎の利権が山ほどある。その利権の配分もまた、小池の自己防衛の武器として使える。私は、マスコミや利権集団の操縦術には、彼女ほどは長けていなかった。

AIゆりこ

 4年前の2020年の都知事選挙の直前にも、小池の学歴詐称疑惑が表面化したが、それは、先述したように、側近の小島らのもみ消し工作が上手くいき、沈静化に成功した。

 そして、その疑惑について他の候補やメディアからの質問を回避するために小池が採ったのが、新型コロナウイルス流行の活用であった。感染拡大防止という大義名分を使って、街頭演説、集会、討論会、メディアのインタビューなどをシャットアウトしたのである。

 今回は、本人そっくりの「AIゆりこ」を作成するという奇策に出た。公務多忙を理由に街頭などには出ず、「AIゆりこ」に代役を務めさせるという。要するに、自分の肉声ではなく、人工的に事前に合成された映像と音声で説明し、突発的で不愉快な質問には答えないというわけである。AIゆりこは、「カイロ大学が私の卒業を証明しています」と繰り返し答えるのみであろう。

「AIゆりこ」(小池百合子YouTubeチャンネルより)

 さらに、小池は、これまでも「stay home」とか「lockdown」とか、しきりに横文字を使って、外国語能力をアピールしてきたが、今度は自分が最先端技術の採用にいかに前向きであるかを誇示したいのであろう。

 そして、「AIゆりこ」で話題作りをし、集票につなげようという魂胆も垣間見える。

 今、アメリカで大統領選挙が行われているが、候補の支持者も批判者も、「AIバイデン」、「AIトランプ」など、生成AIで偽画像や偽音声を拡散させており、問題になっている。法規制の必要性も論じられている。

 私は、「AIゆりこ」のような手段は公選を改正して禁止すべきだと考えている。

 今回の都知事選のような異様な選挙は、民主主義の墓を掘ることになりかねない。

【舛添要一】国際政治学者。株式会社舛添政治経済研究所所長。参議院議員、厚生労働大臣、東京都知事などを歴任。『母に襁褓をあてるときーー介護 闘いの日々』(中公文庫)『憲法改正のオモテとウラ』(講談社現代新書)『舛添メモ 厚労官僚との闘い752日』(小学館)『都知事失格』(小学館)『ヒトラーの正体』『ムッソリーニの正体』『スターリンの正体』(ともに小学館新書)『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』(インターナショナル新書)『スマホ時代の6か国語学習法!』(たちばな出版)など著書多数。YouTubeチャンネル『舛添要一、世界と日本を語る』でも最新の時事問題について鋭く解説している。