エピローグ/第5期プーチン政権の近未来

 新内閣は戦時内閣です。経済官僚を要職に就けたことはウクライナ戦費捻出の必要性を物語っています。

 ウクライナ戦争の終わりが見えず、露国家予算案の戦費不足が表面化してきました。

 露下院第1読会は6月19日、政府が6月3日に下院に提出した国家予算修正案を審議・採択しました。

 2024年の期首国家予算案では財政赤字1.595兆ルーブル(GDP比0.9%)でしたが、赤字は2.12兆ルーブル(GDP比1.1%)に増大するとの修正案です。

 なお、前提となる歳入・歳出期首予算案と修正案は以下の通りです。

期首歳入案 35.065兆ルーブル ⇒ 修正案 35.062兆ルーブル
期首歳出案 36.660兆ルーブル ⇒ 修正案 37.182兆ルーブル

 ロシアでは重要経済指標が順次公開禁止となりました。

 原油生産量は昨年3月度分から発表禁止になりました。

 上述の通り、ロシア財務省は国家予算案遂行状況一覧表を毎月上旬に発表していたのですが、財務省HPにアクセス不能となりました。

 その結果、今年5月度分から露財政状況を分析・評価することは困難になりました。

 戦時経済移行に伴い財政が悪化したので、財政内容公開を禁止したものと推測されます。

 今月に入り、露大統領府HPにもアクセス不能となりました。

 露ガスプロムの経営が悪化しています。気体としてのパイプライン(PL)ガス輸出先は激減しており(実態はほぼ消滅)、頼る輸出先は中国しかありません。

 ゆえに、ロシアから中国向け原油も天然ガスもバナナの叩き売り状態です。

 中国の利益=ロシアの損失であり、これは莫大な富がロシアから中国に流出している構図です。

 換言すれば、ロシアの国益を標榜するプーチン大統領が実態としてロシアの国益を毀損している構図にて、ロシアの対中資源属国化は今後ますます深化していくことになります。

 中国にしてみれば熟柿が落ちてくるのを待っていれば良いだけの話にて、習近平国家主席は内心、笑いが止まらないことでしょう。

 中国にとりロシアの対ウクライナ特別軍事作戦は国益に適っており、欧米軍需産業にとっても社益に適っています。

 繰り返します。戦争指導者が負けたと思わない限り戦争は続きます。

 ゆえにウクライナ戦争は現状、終わりの姿が見えず、ロシア経済はゆっくりではありますが確実に(langsam, aber sicher)滅びの道を歩んでいます。

 英国宰相W.チャーチルは演説の名人ですが、文筆家でもありました。
戦後は回想録『第2次世界大戦』を執筆、1953年にノーベル文学賞を受賞しています。

 彼は数々の名言を残していますが、戦後ソ連の政治家を評して曰く:

ソ連の多くの政治家は、絨毯の下で足を蹴り合っている。誰が誰の足を蹴っているのか、我々外国人には永久に分からないだろう

 誰が誰の足を蹴っているのか分かるようになればプーチン政権は透明性が増し、世界の民主主義勢力からも認知されるようになるでしょう。

 一方、クレムリンの奥の院が透明になれば、世界のクレムノロジストは失職するかもしれません。

 現実は正反対の方向に進んでいます。

 プーチン大統領はついに、周辺を身内で固める独裁体制構築に着手しました。

 プーチン王朝の存在基盤は、実は我々が思っている以上に脆弱なのかもしれません。