希望の学校に中学受験で入るか、大学受験で挑むか=イメージ(写真:Princess_Anmitsu/Shutterstock)

社会学者の西田亮介氏と経済学者の安田洋祐氏が、「日本の未来は本当に大丈夫か」をテーマに対談するシリーズ。前回の連載では「日本の「政治」大丈夫なんですか?」をテーマに裏金事件をめぐる諸問題を論じた。今回のテーマは「日本の「教育」大丈夫なんですか?」。日本の知的生産性の低さを嘆く西田氏の問題提起に対し、安田氏は過熱する中学受験競争の「虚しさ」を経済学の視点から分析する。第3回は安田氏が私立名門大学へは中学受験で附属を狙うより大学受験の方がコスパがいい理由を経済学的に解説する。(JBpress)

(*)本稿は『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議 経済学×社会学で社会課題を解決する』(西田 亮介・安田 洋祐著、日本実業出版社)の一部を抜粋・再編集したものです。

■連載:日本の「教育」大丈夫なんですか?
(1)【西田亮介が語る】なぜ、日本の知的生産性はこれほどまでに低いのか?修士・博士の少なさと無関係ではないのでは
(2)【安田洋祐が語る】なぜ、中学受験は異常なほど加熱?ゆるくなる大学受験、もうピュアな学力を競う場は中受だけ
(3)【安田洋祐が語る】中学受験で私立名門大学附属はコスパが悪いと言える理由、子供を競わせて得る「地位財」の虚しさ←いまココ

中学受験で与えられる地位財

 コストもかかり子どもに負担も強いる。それなのに、なぜ中学受験熱が高まるのかというと、中学受験したほうがその後が開けると思っている親御さんが多いからでしょう。

 また、少し経済学に関連する視点では、地位財(positional goods)、ポジショングッドといわれる財、商品があります。商品自体の使用価値にはあまり意味がなくて、周りよりも相対的によい、高い商品を持っていることが重要というタイプの財です。

 受験の場合は商品ではないですが、中学受験を行なうというサービス競争というか、努力の投入競争と考えると、たくさん投入したほうがやっぱり有利にはなれます。

安田 洋祐(やすだ・ようすけ) 大阪大学経済学部教授。専門は経済学。 1980年東京生まれ。ビジネスに経済学を活用するため2020年に株式会社エコノミクスデザインを共同で創業。メディアを通した情報発信、政府の委員活動にも積極的に取り組む。著書に『そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。』(日経BP・共著)、監訳書に『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀』(東洋経済新報社)など。

 ほかの子どもたちや家庭が、たとえば小5からスタートするところを小4からやれば、大きな差が出るかどうかはともかく、やっぱり一歩先んじることができます。でも、誰かが先んじたら結局、みんな前倒しになってしまう。

 地位財の話は、子ども目線でいうと「ライバルの○○ちゃんよりもいい学校に行くために早めに勉強する」とか、「たくさん勉強する」という競争です。これが親目線に変わると、ますます地位財的な感じが強まります。

 たとえば、自分の子どもがご近所さんたちと比べて少しでもいい学校に行けると、「いい学校に通わせている親」になるわけです。そこでのめり込んでいる親は割と多いという話を聞きます。

 子どもをいい学校へ行かせるためにせっついて勉強させる。長い時間とお金をかけて子どもにたくさん勉強させるとか。まさに地位財です。

 でも、みんな同じようにお尻を叩いてお金を出したところで、トータルの名門校のイスの数が変わらない以上は、どんどん疲弊度合いが高まっているだけです。