「政治とカネ」の問題はなぜ繰り返されるのか。写真は岸田首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

改正政治資金規正法が6月19日、参議院本会議で自民・公明両党などの賛成多数で可決・成立した。そもそも「政治とカネ」の問題はなぜ繰り返されるのか。社会学者の西田亮介氏と、経済学者の安田洋祐氏が、裏金事件をめぐる諸問題を徹底議論する。そこから浮かび上がる、令和の「パーティー券」の悪質性や、裏金問題で死者が出る構図など、目からウロコの視点とは。連載「日本の「政治」大丈夫なんですか?」の第1回は、まず西田氏が問題提起する。(JBpress)

(*)本稿は『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議 経済学×社会学で社会課題を解決する』(西田 亮介・安田 洋祐著、日本実業出版社)の一部を抜粋・再編集したものです。

■連載:日本の「政治」大丈夫なんですか?
(1)【西田亮介が語る】令和の「パーティー券」裏金事件、なぜ過去の「政治とカネ」問題より悪質なのか←いまココ
(2)【西田亮介が語る】なぜ、裏金問題は繰り返されるのか?政治家が資金の使途を絶対に明らかにしたくない理由
(3)【安田洋祐が語る】なぜ、裏金問題では関係者で死者が出るのか? 「悪事を一切認めない」が招く最悪の結末
(4)【安田洋祐が語る】ダイハツの認証不正と政治家の裏金問題の共通点とは?政治にも「内部告発制度」が必要か

“悪質”な令和の裏金事件「パーティ券」問題

 2024年の前半、日本では政治とカネの問題が関心を集めました。でも、まさしくそれこそが周りで見聞きする日本的職場の日常です。

 事件の概要をざっくりご説明すると、派閥の政治資金パーティで、パーティ券収入の一部を政治資金収支報告書に記載していなかったというものです。

西田 亮介(にしだ・りょうすけ) 日本大学危機管理学部教授/東京工業大学特任教授。博士(政策・メディア)。専門は社会学。 1983年京都生まれ。著書に『メディアと自民党』(角川新書、2016年度社会情報学会優秀文献賞)、『コロナ危機の社会学』(朝日新聞出版)、『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください 17歳からの民主主義とメディアの授業』(日本実業出版社)ほか多数。

 発覚のきっかけは、「しんぶん赤旗」の報道です(2022年11月)。その報道を受け、神戸学院大学の上脇博之氏が、自民5派閥の政治団体において約4000万円の不記載があったと東京地検に告発しました。

 もともと、政治資金パーティは法的に認められています。代わりにパーティでの売上(収入)は政治資金規正法で規定された収支報告書に、正確に記載しなければいけません。

日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議 経済学×社会学で社会課題を解決する』(西田 亮介・安田 洋祐著、日本実業出版社)
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 それが記載されていなかったのみならず、中抜きされていたようです。派閥に戻す場合と、自分の手元に置いていた場合があるようだ、と指摘されました。

 政治資金規正法では、不記載と虚偽記載についてペナルティが科せられます。ですから今回のような、記載すべきものを記載していなかったという虚偽記載や過少申告も、もちろんペナルティの対象です。

 ただし、立証はとても難しい。「計算を間違えて実際の金額より多く/少なく記載してしまう」こと自体はヒューマンエラーで起こりうるので、修正できるようになっているからです。

 ですから、悪意をもっての不記載、あるいは虚偽だったとして立件するのはすごく難しい。メモとか、何か会計責任者と政治家本人が共謀した証拠が出てこないと公判に堪えないからです。実際、疑惑の数に対して、立件された人の数は極めて少数でした。

 今回の政治とカネの疑惑は過去の政治と金の問題に比べて悪質な点があると指摘されています。

 1つは大きな金額です。つまり数千万円から数億円単位の金額が虚偽か、あるいは理由はともかく、正しく記載されていなかった。

 また、もっとも人数が多い安倍派(清和政策研究会)を中心にしつつも、二階派や岸田派など、各派閥でも行なわれていたことがわかっています。

 岸田総理は派閥を解散すると表明し、しかし、派閥を解散しても実態は変わらないのではないかという指摘が各方面から相次ぎました。それどころか2024年の時点で派閥は解散しても政治団体としては残っていたり、曖昧さを残しています。