ハイテク企業家が国外に逃げ出す

 インド経済を牽引するスタートアップ企業やIT(情報技術)を研究する大学などは南部に集中しているが、彼らはモディ氏のヒンズー国家化の動きに反発している。モデイ氏がこの政策に固執すれば、今後、南部のハイテク企業家らが海外に脱出する動きに出る可能性は排除できないだろう。

 祖国がこの10年間に世界の大国の仲間入りをしたことで、多くのインド人はユーフォリア(熱狂的陶酔感)に浸っている感がある。だが、内実が伴わなければ、夢から醒めるのも時間の問題だ。

 若者の窮状が続けば、旺盛な国内消費にも悪影響が及び、やがて経済成長を阻害することになる。社会的な混乱が激化する可能性も排除できないだろう。

 モディ氏は「2030年までにGDPを2倍にする」との公約を掲げているが、雇用状況が改善されない限り、これまでのような政権運営の安定化は望めないと思う。

 3期目入りする政権の成否は、世界がうらやむ自国の人口ボーナスをフルに活用できる政策を推進できるかどうかにかかっているのではないだろうか。

藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。