オーストリア・ウィーンのOPEC本部(写真:ロイター/アフロ)
  • OPECプラスが6月2日、自主減産の規模を10月以降縮小し、2025年9月までに終了することを決めた。
  • 実質的な「増産」へと舵を切ったことで、原油価格の下落傾向に拍車がかかっている。
  • 自らの首を絞めることにもなりかねない決定を、なぜしたのか。大統領選を控えたバイデン政権に配慮したとの見方もあるが、背景にはアラブ首長国連邦(UAE)とサウジアラビアの確執がある。(JBpress)

(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)

 6月5日の米WTI原油先物価格(原油価格)は前日比0.82ドル(1.1%)高の1バレル=74.07ドルで取引を終了した。原油価格は前週末から「下げ」がきつく、4日には72.48ドルと約4カ月ぶりの安値を付けていた。投資家の間に値ごろ感が広がったことから、原油価格は6日ぶりに上昇に転じた。

 中東地域の地政学リスクは高止まりの状態が続いている。

 イスラエルとハマスの間の停戦交渉は相変わらず難航している。イスラエルとレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの間の戦闘が激化するリスクも生じている。イエメンの親イラン武装組織フーシ派は紅海などを航行する船舶への妨害行為を続けている。

 だが、これらが市場で材料視されることはほとんどなくなった感がある。

 直近の原油市場を動かしたのは、6月2日のOPECプラス(OPECとロシアなどの大産油国で構成)の閣僚級会合の決定だった。

 OPECプラスの決定事項は以下の通りだ。

(1)今年末に終了が予定されていた日量366万バレルの協調減産を2025年末まで延長する。

(2)今年1月から8カ国が実施している日量220万バレルの自主減産を6月末から9月末まで延長する。10月から漸進的に減産幅を縮小させて来年9月までに終了する。市場の状況によっては減産緩和のペースが遅くなる可能性がある。

 この決定を市場は弱気材料と判断した。「自主減産は年末まで続く」と見込んでいたからだ。10月から減産幅を縮小するということは、9月までと比べて「増産」を意味する。

 OPECプラスも原油価格に下落圧力がかかることは覚悟していただろうが、その負のインパクトは想定以上だったと思う。 

 世界の原油需要の伸び悩みの兆しが災いしたようだ。