- イランのライシ大統領がヘリコプターで墜落死した。イスラエル・ハマス戦争のさなか、最高指導者ハメネイ氏の後継者問題は新たな中東リスクになりかねないとして警戒感が高まっている。
- だが、原油市場への影響では限定的と見られ、むしろサウジアラビアの王位継承をめぐり混乱が生じることが大きな懸念材料だ。
- ムハンマド皇太子の訪日キャンセルは国王の「健康状況」が理由とされたが、権力闘争の激化を警戒して訪日どころではなかった、というのが真相ではなかろうか。(JBpress)
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
5月22日の米WTI原油先物価格(原油価格)は前日比1.09ドル(1.4%)安の1バレル=77.57ドルで取引を終了した。米国の原油在庫の増加や「米連邦準備理事会(FRB)が利下げに慎重」との見方が、原油先物の売りにつながった。
5月に入り、原油価格は「80ドルの壁」が意識され、伸び悩む展開となっている。
中東地域を中心に地政学リスクが生じているが、「原油供給に支障が出ない限り、80ドルを突破することはない」との見方が支配的だ。
まず、いつものように世界の原油市場の需給を巡る動きをアップデートしておこう。
石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの大産油国で構成するOPECプラスは6月1日に閣僚級会合の開催を予定しているが、7月以降の原油生産目標に関する情報は出てこなくなっている。
次回会合では「メンバー国の生産枠の調整」という難題が議論されることから、水面下では厳しい交渉が行われていることは確実だ。交渉の結果次第では、原油価格を大きく動かす要因になるだろう。
世界最大の原油消費国である米国で21日、政府が保有するガソリン備蓄が100万バレル放出されることが決定された。11月の選挙で再選を目指すバイデン大統領が、夏季のドライブシーズンを前にガソリン価格抑制のための手段を講じた形だ。
中国のロシア産原油依存が鮮明に
世界最大の原油輸入国である中国のロシア産原油の依存が鮮明になっている。
中国の4月のロシアからの原油輸入は前年比30%増の日量225万バレルだった。ロシアは12カ月連続で中国への最大の原油供給国となっている。
一方、4月のサウジアラビアからの輸入は前年比25%減の日量154万バレルだった。サウジアラビアは昨年4月まで中国への最大供給国だった。
不動産危機が続いている中国の原油需要が減少する兆しが出ている。
中国の4月の原油処理量は前年比4%減の日量1436万バレルとなり、2022年末以来の低水準だった。
市場はほとんど材料視しなくなったが、産油国を巡る地政学リスクは高まるばかりだ。