(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年5月15日付)

亡くなった安倍元首相の最大の置き土産と言っていいかもしれない(写真は2020年4月13日、ロイター/アフロ)

 経済規模の大きな先進国の財政資源を、1年につき国内総生産(GDP)1%相当額増やせる政策を想像してみてほしい。

 この政策はまるで魔法だ。

 増税も、歳出削減も、資産売却も、後に返済が必要になる借り入れも行わないのに、カネがどこからともなく湧いてくる。

 資金繰りに困っている世界各地の政府にはとても魅力的に映るだろうが、いくらなんでも話がうますぎる。

 ところが、そのうますぎる話が本当に存在する。

 日本が擁する世界最大の年金運用基金、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)において2014年に行われた改革がそれだ。為替リスクと株式リスクを取ったことが奏功したのだ。

安倍元首相のGPIF改革

 安倍晋三元首相が2014年に着手した改革は、運用資産の大半が国内資産(特に、全体の60%が日本国債)で占められていたGPIFのポートフォリオを、株式が50%、国外資産が50%をそれぞれ占めるように組み替えるというものだった。

 ユーリゾン・SLJキャピタルのスティーブン・ジェン氏とジョアナ・フレイレ氏によれば、GPIFの運用資産額は2014年の137兆円から今日の226兆円に膨らんでいる。

 もしこの組み替えを行っていなかったら、今日の運用資産額は168兆円にとどまっていた。

 上乗せされたリターンは58兆円(約3700億ドル)で、日本のGDPの約10%に相当する。まさに史上最大の利益をもたらした資産配分見直しに違いない。

 もちろん、これには円安という追い風が寄与している。

 日本円は同じ期間に1ドル約100円から約150円に下落している。しかし、重要なのはこれが単なるツキではなく、為替リスクを取った結果であることだ。

 運用成績が悪い時期には、この為替差益の一部が相殺されることもあり得るだろう。それでもこれは、世界が研究すべき政策実験だと言える。

 学び取れる教訓は6つある。