環状線化の延伸議論がストップしている「ゆりかもめ」

 そして現在は豊洲駅でストップしているゆりかもめの延伸も、これらの鉄道計画に触発されて進み始めるのではないかとの期待も高まる。

 ゆりかもめは、1995年に新橋駅─有明駅間が開業。同線の整備は、新橋駅と臨海副都心として開発が進められていた台場地区とを結ぶことを目的にしていた。

 その先導役として、1996年に台場地区を中心に世界都市博の開催が予定されていた。世界都市博は青島幸男都知事(当時)によって中止されたが、ゆりかもめは予定通りに開業。2006年には有明駅から豊洲駅まで線路を延伸した。

 豊洲駅まで到達したゆりかもめは、豊洲駅を終着としていたわけではなく、そこから先は進路を西へと取り、勝どき・晴海エリアを経由して新橋駅まで戻るという環状線化する計画となっていた。そのため、豊洲駅から先にも延伸が可能な構造で建設されている。

 昨今、湾岸エリアのタワマンはより都心に近い場所で増える傾向で、中央区の勝どきや晴海のタワマン乱立は著しい。勝どき・晴海には東京BRTも走っているが、定時性・輸送力・速達性の3点においてゆりかもめに劣る。それだけに、公共交通の充実という面からも、ゆりかもめの延伸が望ましいが、中央区が環状線化に難色を示しているため、延伸議論も棚上げになっている。

 しかし、中央区にもタワマンが増え、通勤・通学の足を確保するという大義名分に抗うことは難しい。当初の環状線化とは別の形、例えば東京駅方面への延伸という別ルート案も出てきており、状況次第ではそうした形でゆりかもめの延伸が実現する可能性もある。

ゆりかもめの豊洲駅ゆりかもめの豊洲駅。延伸可能な状態のまま放置されている(筆者撮影)

 日本は人口減少社会に突入し、2023年には1年間で約59万5000人の人口減となった。そうした中、江東区や中央区といった東京の湾岸エリアはタワマンの転入者によって局地的な過密をもたらした。

 その結果、行政や鉄道事業者は公共交通機関の整備に追われることになるわけだが、タワマンによる人口増は公共交通を整備するスピードを上回るペースで進んでいる。そのため、せっかく策定した計画も繰り返し見直しを余儀なくされているのが現状だ。

 タワマンと公共交通の整備は、新たな都市問題となって行政や鉄道事業者を悩ませている。

【小川 裕夫(おがわ・ひろお)】
フリーランスライター。1977年、静岡市生まれ。行政誌編集者を経て、フリーランスのライター・カメラマンに転身。各誌で取材・執筆・撮影を担当するほか、「東洋経済オンライン」「デイリー新潮」「NEWSポストセブン」といったネットニュース媒体にも寄稿。また、官邸で実施される内閣総理大臣会見には、史上初のフリーランスカメラマンとして参加。取材テーマは、旧内務省や旧鉄道省、総務省・国土交通省などが所管する地方自治・都市計画・都市開発・鉄道など。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『東京王』(ぶんか社)、『全国私鉄特急の旅』(平凡社新書)、『封印された東京の謎』(彩図社文庫)、『路面電車の謎』(イースト新書Q)など。共著に『沿線格差』(SB新書)など多数。