湾岸エリアの混雑緩和を図る「新交通」の現状

 タワマンの増加で起こる行政課題は、保育所・小中学校の不足だけにとどまらない。公共交通機関の整備や通勤ラッシュ時における混雑対策、駅前の駐輪場の整備などにも取り組まなければならない。

 豊洲には東京メトロ有楽町線の豊洲駅があり、ここから一本で銀座や有楽町、永田町といった都心部へとアクセスできる。決して交通に不便ではないが、江東区には南北に移動できる鉄道網が大江戸線しかなく使いづらい。そのため、江東区の南北移動は都営バス頼みだった。

 また、豊洲駅周辺にタワマンが増えたことで、有楽町線の朝の通勤・通学ラッシュは激しくなっていた。さらにタワマンが増えれば、豊洲駅は混雑でホームに人が溢れ、事故などの不測の事態を頻発させる恐れもある。

 そこで東京都は混雑対策として、湾岸エリアの開発に合わせて2020年から東京BRT(バス高速輸送システム)の運行を開始した。

東京都心から臨海部を結ぶバス高速輸送システム「東京BRT」東京都心から臨海部を結ぶバス高速輸送システム「東京BRT」(写真:共同通信社)

 東京BRTは東京オリンピックの選手村跡地を住宅地として開発した「晴海フラッグ」の住民の足という目的に目が行きがちだが、豊洲を経由するルートも開設されている。このように動線を分散させることで混雑緩和を図ろうとした。

 しかし、東京BRTは湾岸エリアと新橋駅とを結ぶ交通機関で、江東区の弱点でもある南北移動を解消するものではない。そうした課題に対して、江東区は豊洲駅から東陽町駅・住吉駅を経由して墨田区の錦糸町駅まで乗り入れる「豊住線」の計画を進めている。開業目標年は2030年代とされており、すでに事業認可を受けた東京メトロと江東区が共同して整備を進めている。

 豊住線という南北移動に加えて、江東区は2000年代より江戸川区小岩駅と越中島貨物駅とを結ぶ貨物線用線をLRT(新型路面電車)へと転換すると共に旅客化することを目指してきた。

 貨物線をLRT転換するにあたり、江東区は総武線の亀戸駅から越中島貨物駅までの線路をそのまま活用し、越中島貨物駅から南側は新たに線路を新設して京葉線の新木場駅までをつなぐ計画を策定した。

 同計画は2006年にJR富山港線をLRT転換した富山ライトレールをモデルにしたもので、当時の江東区も「富山に続け!」とばかりに意気込んでいたが、世間が抱く“路面電車の前時代的なイメージ”を払拭できずに区民からの支持を得られなかった。また、2015年には東京都から「事業性に対して疑問が残る」と指摘され、LRT計画は実質的に凍結されていた。

 しかし、昨年に栃木県宇都宮市・芳賀町で新しい路面電車が誕生。話題性もさることながら利用者数が想定を上回って好調だったため、江東区のLRT計画も再起動する兆しを見せている。

豊洲と晴海の間を流れる運河には、かつて東京都港湾局によって運行されていた貨物専用線の橋梁が残されている。現在、同橋梁は観光資源化するために再整備中(筆者撮影)