家全体の空気が循環し、温度ムラのないエコハウス

 それ以前も、取材でエコハウスを訪れる機会はありましたが、1~2時間ほど滞在して話を聞く程度では、体感できることは限られます。かといって、「ここでお風呂に入ってもいいですか?」などとお願いするわけにもいきません。

 そこで、当時私が住んでいた東京の近くで宿泊体験ができる場所を探しました。見つかったのが、埼玉県川越市にあったエコハウスです。2016年2月にそのモデルハウスに宿泊したことが、やや大袈裟に言えば、運命の出会いとなりました。

 そのモデルハウスは、一般的な戸建て住宅と同じサイズ(約30坪)でした。2階建てで、白壁の外観や四角い形も、一見するとどこにでもありそうな普通の住宅です。訪れた日は、2月にもかかわらず日中の気温が18℃まで上がり、住宅の性能を実感できないのではないかという心配もしていました。

 驚いたのは中に入ってからです。まず、1階に常設の暖房器具がありませんでした。寒いときに使えるよう念のためオイルヒーターが用意されていたものの、多くの宿泊者は使っていないとのことでした。

 既存の日本の住宅ともっとも違ったのは、間取りです。既存の住宅では、できるだけ空間を仕切り、夏や冬は人がいる部屋だけを冷暖房します。しかしこの家の17.5畳のリビングダイニングには大きな吹き抜けがあり、2階とつながるなど、家全体の空気が循環しやすいようになっていました。

 そして各部屋のドアも、基本的にはいつも開けっぱなしです。それにより温度ムラが起きにくくなり、家のどこでもほぼ同じ温度を維持していました。

 音の静かさにも驚きました。モデルハウスは片側4車線の交通量の多い国道沿いにあり、大型トラックなどが常に往来するため、外では騒音が気になります。しかしトリプルガラスの入った樹脂サッシの窓のおかげで、室内は立地を忘れるほど静かでした(写真1、2)。

出所:『「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札 』(集英社新書)より

 もちろん、壁などにしっかり詰め込まれた断熱材の効果もあります。断熱材は床に105mm(ビーズ法ポリスチレンフォーム特号)、外壁と内壁に合わせて185mm(ロックウールとセルロースファイバー)、天井に300mm(セルロースファイバー)が入っています。

 日本で一般的に使われているグラスウールという断熱材とは種類が違うので、単純に厚みで比較はできませんが、参考までに断熱等級4の住宅で使われる断熱材(高性能グラスウール)の厚みと比べてみます。

 国の基準では、床105mm、壁85mm、天井155mmが目安となっています(6地域(東京))。単純に厚みだけで比べても、壁と天井は倍くらい厚いことがわかります。床の厚みは同じですが、モデルハウスで使われている断熱材は、高性能グラスウールの約1.5倍の性能があるとされています。