(英エコノミスト誌 2024年4月13日号)
誰が被害を補償するのか?
気候変動の打撃を被りやすい場所はどこかと問われたら、バングラデシュの水田や標高の低い太平洋の島々を思い浮かべるかもしれない。
だが、その答えは「あなたの家」だと言われたら、きっと驚くはずだ。
評価額ベースで見る場合、世界の居住用不動産の約10分の1は地球温暖化の脅威にさらされている。そのなかには、海岸に近いとはとても言えない住宅も数多く含まれている。
米国中西部の郊外を襲う竜巻からイタリアの別荘の屋根を突き破るテニスボール大の雹(ひょう)に至るまで、温室効果ガス排出によってもたらされる異常気象は世界で最も重要な資産クラスの土台を揺さぶっている。
潜在的なコストは気候に関連する損害に加え、住宅からの温室効果ガス排出を減らすための政策からも生じる。その規模は莫大だ。
ある推計によれば、気候変動とその対策は2050年までに世界の住宅の価値を9%吹き飛ばす恐れがある。金額で言えば25兆ドルに上り、米国の年間国内総生産(GDP)とそう変わらない。
これは人々の暮らしとグローバル金融システムに突き付けられている恐ろしいほどの額の請求書だ。
そして、それを誰が負担するかをめぐる激しい争いを引き起こす運命にあるように見える。
コストを負担するのは住宅所有者か納税者か
負担者の候補としてまず考えられるのは住宅の所有者だ。
だが、今日の不動産市場を眺める限り、住宅所有者はまだそのコストを負担していないようだ。
気候リスクに応じて住宅価格が調整されている兆しは、ほとんど見受けられない。
例えば海面上昇についての大きな懸念の対象になっている米マイアミでは、住宅価格がこの10年間で8割上昇しており、米国の平均上昇率を大幅に上回っている。
また、気候変動のインパクトがまだ不確かなために、自分がどの程度のリスクを取っているのか住宅購入時には分かっていなかった住宅所有者も大勢いるかもしれない。
とはいえ、住宅所有者に代わって納税者がコストを負担することになれば、裕福な住宅所有者を救済することになり、迫り来る脅威に適応させるのに役立つインセンティブを鈍らせてしまう。
政府がコストを分担させるのも難しい。何より、有権者が自分の家の価値を非常に気にしているのを政府が知っているからだ。
負担は大きく3つに分けられる。
家が傷ついた後の修繕費用、家を守る手段への投資、そして気候変動の影響を抑制するための住宅改修費用だ。