(英エコノミスト誌 2024年3月23日号)
ほとんどの中国国民はソーシャルメディアでニュースを知る。共産党は注意を払っている。
ソーシャルメディアをめぐる米国政府当局者の不安は尽きることがないように思えてくる。
人気を博している中国発の動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」が中国共産党のプロパガンダの道具として利用されるかもしれないという考えに政治家は恐れおののいた。
米連邦議会下院は3月13日、ティックトックを傘下に置く中国企業、字節跳動(バイトダンス)にアプリ売却を強制し、売却しない場合は米国内でのサービス提供を禁止する法案を可決した。
その5日後には、連邦最高裁が誤った情報を含む投稿の削除をソーシャルメディア企業に求めたバイデン政権の要請の是非について審理を行った。
どちらの話も、ニュースの拡散と世論形成への影響において大きな役割を担っているソーシャルメディア企業が強い力を持っていることを物語っている。
何かと規模が大きい中国ソーシャルメディア
中国のソーシャルメディアについても同じことが言える。
中国共産党はフェイスブックやX(旧ツイッター)、ユーチューブといった米国企業所有のサイトをかなり前に禁止した。
だが、中国版のソーシャルメディアがその穴を埋めた。
こうした企業は米国の同業者と同様に、多数の人の目に触れるメディア・プラットフォームに進化した。
2022年の調査によれば、中国国民の46%はショート動画アプリでニュースを見ている。
その筆頭格はティックトックの中国国内版にあたる抖音(ドゥイン)で、月間アクティブユーザー数は約7億4000万人に達している(ちなみに中国の人口は14億人)。
また国民の3分の1前後は微博(ウェイボ、新浪=シナ=という企業が所有するXのようなサイト)に目を通して世間の動きに遅れないようにしている。
加えて騰訊控股(テンセント)のメッセージングアプリ、微信(ウィーチャット)を利用する人も多く、ユーザー数は13億人に上る。
中国共産党が情報を厳しく統制していること、そして民間企業に強い不信感を抱いていることを踏まえると、珍しいことが起きているように外部からは見える。
しかし、共産党は自分たちのメッセージを発信するようソーシャルメディアを統制してきた。反体制的なコンテンツは削除される。
それでも北京の政府当局者は、ワシントンの政治家と同じくらいこのメディアに不安を感じている。
ソーシャルメディアが大衆への広報活動においてこれほど大きな役割を担うように中国共産党が取り計らったわけではない。
比較的最近まで、政府はこれらの企業を主に経済成長の牽引役と見なしてきた。創業者は起業家精神に富んだ英雄として持ち上げられた。
そうした創業者は大抵、党に逆らってはいけないことを承知していた。
例えば、バイトダンスを立ち上げた張一鳴氏は2018年、ある傘下プラットフォームに好ましからざるコンテンツが掲載されていると規制当局から批判された後、読む者が困惑するような謝罪文を公表した。
「深い後悔と罪悪感にさいなまれ、一睡もできません」と述べ、自社のプロダクトが「社会主義の核心的価値観にそぐわない」ものだったと認める内容だった。