沿線住民・団体の力が示した集客力のポテンシャル

 全線無料デイの約1か月後、2022年11月19日には、沿線諸団体による第2回目の「近江鉄道線活性化交流会」が開かれた。約50人が参加したこの場には、三日月知事もサプライズで出席。途中退席することもなく、最初から最後まで意見交換に交わった。

 知事が沿線団体の交流会に参加することも、鉄道事業者、沿線自治体、さらに沿線諸団体が一体となって一つのイベントを成し遂げたからこそ実現したものだと言える。

 この活性化交流会は2023年度も実施され、今後も近江鉄道株式会社が中心となって継続していく予定である。

 全線無料デイの翌年、2023年10月14日(土)には、「ガチャフェス」と銘打ったイベントが開かれた。日中時間帯は約30分間隔のダイヤに増便され、終日大人全線乗り放題100円、子供は無料という内容だった。ガチャフェスのガチャとは、「ガチャコン」という近江鉄道線の愛称に由来する。

 沿線イベントは前年の14か所を大きく上回り、49か所で開催された。この参加団体の増加は大きな意味を持つ。近江鉄道線と自分たちの活動を結び付ける発想が浸透してきた結果だと言えるだろう。この日の利用者数も目標の2万人を達成した5)

 全線100円乗り放題のチケット代わりに使われたものが、オレンジ色のリストバンドであった。これはよく目立つ。電車に乗り合わせた人たちや、沿線のイベントに参加している人たちがみな同じリストバンドをすることで、イベント全体の一体感を高めることにつながった。

 全線無料デイで集客力のポテンシャルを実感し、その後のイベントでも成功体験を共有してきたことは、近江鉄道線の上下分離以降にも大きな意義を持つ。

 近江鉄道線の存続が実現したのは、単に制度として上下分離へのスキーム移行がうまくいったということではない。一連のイベントを通し、沿線の諸団体や住民たちが持つ力が顕在化したことで、草の根的な支援の輪が拡大することになったのが大きかったと言えるだろう。

■参考資料
1)滋賀県:第9回近江鉄道沿線地域公共交通再生協議会資料、2022年3月29日
2)滋賀県:第10回近江鉄道沿線地域公共交通再生協議会資料、2022年10月26日
3)滋賀県:第10回近江鉄道沿線公共交通再生協議会議事録、2022年10月26日
4)滋賀県:第11回近江鉄道沿線地域公共交通再生協議会資料、2023年3月28日
5)滋賀県:第12回近江鉄道沿線地域公共交通再生協議会資料、2023年10月24日