2024年4月、近江鉄道線は上下分離方式へと移行する。「存続か、廃線か」という2択の議論を経て、この道で行くと決断がなされた、その新たなスキームがまもなくスタートする。近江鉄道が民間単独経営の「白旗」を挙げて以降、県と沿線自治体、専門家、そして市民らが一体となって、どうあるべきかの議論を進めてきた。全国のローカル線再生のリーディングプロジェクトとも言われるこの事業。「存続」の背景に何があったのか。新たなスキームで近江鉄道線はどう変わるのか。陣頭指揮を執ってきた滋賀県・三日月大造知事への単独インタビューで聞いた。<#2>
(聞き手:土井勉、河合達郎)
「何で県がそんなに乗り出していくねん?」接着剤としての県の役割
三日月大造・滋賀県知事(以下、三日月氏):交通というのはあくまで手段であって、大事なのはまちをどう考えるのかということです。全線存続へと導いていく首長会議の場で、僕は「未来へあかねさす湖東地域のために」1)というタイトルの私案を作り、みなさんにお示ししました。鉄道ということではなく、地域にどういう魅力があるのか。それを切々と書いたものです。
この地域は、自然豊かな日本の原風景だろう、と。古の時代から政治文化の中心だったよね、と。近代現代の日本の礎を築いた源流地域だろう、と。未来を拓く可能性を秘めた持続可能な発展地域じゃないか、と。
そして、この歴史、文化資源、生産力、豊かな地域を作ってきたのが近江鉄道線であり、それをさらに生かすことによって、その価値と地位を高めることができるのではないか、と。そんな内容でした。
要は、僕はこういう思いで臨むから、決して引かないよと。そういうことを言いたかったんです。これも、各首長のみなさんの間での共通理解を深めるきっかけの一つになったのではないかと感じています。
どうやったらみんなが同じ方向を向いていけるのかということを考えたときに、県という広域行政が出ていく理屈を探していたという意味合いもありました。湖西地域や南部の県民が、湖東地域を走る鉄道のために「何で県がそんなに乗り出していくねん?」と考えるのはある意味で当然でしょう。
湖東地域にはまだまだ発展の可能性があって、そこに県も乗り出していって、一緒になってモデルを作ることができたら、県内の他の地域にも波及できるのではないかと。そんな思いもありました。
温度差のある自治体をつなぐという意味で、県が接着剤の役割を果たせる部分はあったと思います。