2024年4月、近江鉄道線は上下分離方式へと移行する。「存続か、廃線か」という2択の議論を経て、この道で行くと決断がなされた、その新たなスキームがまもなくスタートする。近江鉄道が民間単独経営の「白旗」を挙げて以降、県と沿線自治体、専門家、そして市民らが一体となって、どうあるべきかの議論を進めてきた。全国のローカル線再生のリーディングプロジェクトとも言われるこの事業。「存続」の背景に何があったのか。新たなスキームで近江鉄道線はどう変わるのか。陣頭指揮を執ってきた滋賀県・三日月大造知事への単独インタビューで聞いた。<#1>
(聞き手:土井勉、河合達郎)
不安の中、知事室で向き合った
――近江鉄道は2016年6月、「今後、民間企業の経営努力による事業継続は困難」というメッセージを出されました。事業者と直接話をされたのではと思われますが、そのときの心境は。
三日月大造・滋賀県知事(以下、三日月氏):近江鉄道の社長が、ここ(知事室)に来ていただいたと思います。当然、事前に事務方や副知事含めいろいろとお聞きした上ではありました。
知事がお会いするということは、お話を単に伺うということだけではありません。その後のことも含めて、腹をくくるとか、それこそレールが引けるかどうかという見通しが必要だったと思うんです。ですが、どう持っていけばいいのか、その時点できちんとした目算があったわけではありませんでした。正直、お会いするときは不安でした。
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ただ、二つあるなと思ったんです。一つは、公共交通、とりわけ大量輸送機関としての鉄道の役割・特性を十分に発揮できているのか否かということです。もう発揮できないのだとすれば、終焉に向けて持っていく問題でしょう。だけど、まだ多くの方が乗られていて、テコ入れできる可能性があるのだとすれば、そこにはやっぱりみんなの力を結集する必要があるだろうと。
もう一つは、手を打つなら早い方がいい。これは、あとになればなるほど、そういう見解がより補強されていきましたね。
私自身が鉄道員でしたし、そして国土交通行政というのは、とりわけ国会議員時代からのライフワークでもありました。困難な課題ではあれ、私自身が知事のときに何らかの道筋を示しておく必要があるだろうと。内なる闘志というか、内なる腹決めはしたつもりでお話は聞きました。