核の威嚇を常套手段にするプーチン

 フリードマン氏によると、核兵器の戦略的価値を信じる国が多すぎるという。「完全な核軍縮を主張することは道義的には必要なことかもしれないが、核の時代に生きるということに内在する厄介な問題を回避することにもなりかねない」(同)

 核の威嚇を常套手段にするプーチンは西側がウクライナのために直接介入するのを巧みに抑止してきた。「NATOが直接介入すればアルマゲドンにつながるというモスクワの日常的な脅しにより軍備管理協定が破棄されたり形骸化したりして不安は新たなレベルに達している」という。

昨年10月、ロシアはプーチン大統領の指揮下、核戦略運用部隊の演習を実施した(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

「より現実的な選択肢は、核保有国が自国の存在そのものに対する脅威を抑止したいと願い続けることを受け入れることだ。政治指導者たちが危機的状況下でもリスクを回避し続けることを望むのであれば、核兵器と大量死の密接な関係を断ち切らないことが最善である」(同)

「核兵器を完全になくすことができないのであれば、想像しうる最悪の結末のリスクもなくなるわけではない。そうでないふりをしていても得られるものはほとんどない」(同)。オッペンハイマーが抱えた葛藤と不条理こそが最悪シナリオを防ぐ「残酷な均衡」の原点と言えるだろう。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。

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