(国際ジャーナリスト・木村正人)
広島、長崎への原爆投下は必要だったのか
[ロンドン発]原爆開発の「マンハッタン計画」を主導し「原爆の父」と呼ばれた米物理学者ロバート・オッペンハイマー(1904~67年)の境涯と葛藤を描いたクリストファー・ノーラン監督の米映画『オッペンハイマー』が3月29日から日本でも全国公開された。
米国や英国では昨年7月に公開され、第96回アカデミー賞の作品賞、監督賞、主演男優賞など最多7部門を受賞した。日本では被爆者やその家族のトラウマが戦後80年近く経った今も癒えない。『オッペンハイマー』は原爆の惨状を描いていないという批判が日本では強かった。
ユダヤ系のオッペンハイマーは43年、ロスアラモス国立研究所の初代所長に任命され、ナチスドイツとの原爆開発競争に負けないよう陣頭指揮を執る。非人道的な大量破壊兵器の開発には大義名分があった。しかし大戦後は水爆開発に反対し、「赤狩り」で公職を追放される。
米英がイラク戦争を強行する直前の2002年、筆者は米コロンビア大学に留学した。「戦争と平和」をテーマにした授業で「第二次大戦を終わらせるため広島、長崎の原爆投下は必要だったか」という教授の問いにほとんどの学生が挙手でイエスの意思表示をしたことに衝撃を覚えた。